フォードが北米でセダンから撤退する裏事情 レンタカー頼みは限界、米国2社の後を追う

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同じビッグスリーの一角であるゼネラル・モーターズ(GM)も同様の事情を抱える。GMは数年前まで実に年間60万台もの台数をレンタカーでさばいていた。欧州事業のPSA(プジョーシトロエングループ)への売却に象徴されるように、低収益事業を整理し、EV(電気自動車)や自動運転など将来技術に大胆に資源を振り向けるメアリー・バーラCEO(最高経営責任者)がこれを見逃すはずはなく、2016年には45万台レベルにまで減らし、2017年3月には今後30万台レベルまでレンタカー向け販売を減らすと明らかにしている。

GMのアメリカでの販売台数は2016年の304万台から2017年は299万台に減った。しかし赤字の欧州事業を売却したことや、低採算のレンタカー向け販売を絞ったことなどにより、収益性は向上し株価も上がっている。

クライスラーはすでに2年前に乗用車販売から撤退

加えてフォードがセダンを中心とした乗用車販売からほとんど撤退してしまうのは、アメリカの自動車業界にとって先進的な動きではない。実はGM、フォードと並ぶビッグスリーのクライスラーはフォードの2年前に一部のスポーツ系車種(プラットフォームを共有するクライスラー300、ダッジチャージャー及びチャレンジャー)を除き乗用車販売から撤退してしまっている。合併したフィアット・クライスラー(FCA)のセルジオ・マルキオンネCEOが下した決断だった。

【2018年5月4日17時18分追記】記事初出時、「クライスラーはフォードの2年前にスポーツカーを残して乗用車販売から撤退してしまっている」と記述していましたが、正確な表現ではなかったため上記のように修正しました。

2009年にチャプター11(連邦倒産法11章)の適用後、政府支援を受けて再生したGM、フィアット傘下で構造改革を進めるクライスラーが株価を上げているのに対して、自力でリーマン後の危機を乗り切ったフォードは改革が遅れ、株価も低迷している。

若くしてマツダ社長となり、マツダ開発のCDプラットフォームをフォードグループの旗艦車種に全面採用するなどグループの効率化で功績をあげたマーク・フィールズ氏は、2012年からの5年の在任中に効率化の面でもEVや自動運転など次世代技術への布石でもGMに差をつけられ、昨年5月にCEOを解任された。

フォード新社長のジェイムス・ハケットが打ち出した効率改善のひとつが今回の乗用車撤退、というわけだ。ただ、すでにFCAのマルキオンネCEOがクライスラーで示した手法をまねたにすぎず、特に目新しくもない。

もう1つ、今回の動きを後押ししたかもしれないのがトランプ大統領だ。就任前から地球温暖化には懐疑的で自動車の環境規制を見直してもっと売れる車を造れるようにして雇用を創出する、と公言していたトランプ大統領。それを恐れた米環境保護庁EPAは大統領就任直前の2017年1月、まだ1年以上残っていた審議期間を打ち切って、民主党政権下で提案した環境規制を固定してしまった。

当然トランプ大統領は就任早々、それを再度見直すと言って、昨年3月にはデトロイトにバーラ、フィールズ、マルキオンネら自動車メーカー首脳を集めて恩着せがましく規制の再見直しについてテレビを意識したパフォーマンスを見せた。

次ページトランプ大統領の政策が雇用減に作用する皮肉
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