ヤマト運輸は本当に「宅配危機」を脱したのか 2018年度V字回復でも「運転手確保」なお課題

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ドライバー確保のハードルは高い。ヤマトにとって頭が痛いのが、配達体制の再整備に時間を要している間に、体力のある荷主が中小の物流会社を組織して自社配送網を構築し始めていることだろう。とりわけ意識せざるをえないのが、最大顧客のアマゾンの動向だ。アマゾンは、ヤマトが配送の逼迫により、2017年度に商品の当日配達から事実上撤退したことを契機に、自社配送網の構築を本格化させている(「アマゾン『当日配達ドライバー』の過酷な実態」)。

都内にあるアマゾンのデリバリープロバイダの拠点では、多くの車両の荷台が「amazon」のロゴが書かれた段ボール箱で満杯になっていた(記者撮影)

首都圏や近畿圏を中心に地域限定でアマゾンの配達を請け負う物流会社は「デリバリープロバイダ(DP)」と呼ばれる。2017年末にヤマトがドライバーのアルバイトを時給2000円で募集して話題を集めた神奈川県では、宅配便のドライバー不足が全国でも際立っている。こうした状況を受け、アマゾンは昨年秋に地元の物流会社2社と新たに契約。DPの契約社は全国ですでに8社を数える。DPの中には、従来対応していなかった配達時間指定に今春から対応する会社もあるなど、アマゾンは配達サービスの維持・向上に躍起になっている。

活発化するECの自社配送網構築

アスクルが個人向けに展開する日用品ECの「LOHACO(ロハコ)」や家電量販店のヨドバシカメラのEC「ヨドバシ・ドット・コム」でも、商品の配達に自社配送網を活用している。首都圏など大都市部が中心だが、大手の宅配便同様、時間指定にも対応できるようにし、利便性向上に力を入れる。楽天も本格的な自社配送網構築に乗り出しており、物流センターを今後2年かけて現在の3カ所から10カ所に増やす計画だ。

JPモルガン証券の姫野良太アナリストは「自社配送網構築に取り組む荷主と、ドライバーの争奪戦はますます加速していく。ヤマトHDにとって、人員の十分な確保ができなければ、配送量を増やそうにも外注費に圧迫され、成長路線への復帰は難しくなる」と指摘する。

現状では自社配送網を構築できる荷主は限られているが、荷主側が高効率で低コストの配送網を構築するノウハウを得てしまうと、ヤマトにとっては大きなリスクになる。ヤマトが配達体制を再構築できても、荷主側の自社配送網に逃げてしまった荷物が戻ってこない可能性があるのだ。

大手ECが手掛ける自社配送網のサービスレベルが上がれば、ヤマトの宅配サービスの優位性が相対的に揺らぎかねない。商品の配達でヤマトを使うEC事業者の中には、運賃の値上げで上昇した配送コストを消費者にすべて転嫁できず、利益を削って対応しているところも多い。営業利益の過去最高更新も射程に入る中、ヤマトは運賃に見合った高品質なサービスを提供できているか、顧客からより厳しく問われることになりそうだ。

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年から東洋経済編集部でニュースの取材や特集の編集を担当。2024年7月から週刊東洋経済副編集長。

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