本人が認めない、アルコール依存の怖い実態 山口達也メンバーの事件から考える
一方、断酒を継続させるために薬物治療が併用される。従来は「抗酒薬」と呼ばれるものが使われてきた。一口酒を飲むだけで悪酔いを引き起こす働きにより、酒に対する嫌悪感を抱かせ、飲酒を予防する薬だ。しかし抗酒薬は副作用が出やすく、心臓や肝臓に問題を抱えている人は使用できない。また、患者自身も副作用の強さから怖がって飲みたがらない人が多かった。
これに対し、2013年5月、飲酒欲求そのものを抑える断酒補助薬「レグテクト(一般名・アカンプロサートカルシウム)」が登場した。アルコール依存症になると、脳の興奮に関係するグルタミン酸神経の活動が高まり、飲酒欲求を高める。レグテクトはその神経の働きにブレーキをかける薬だ。抗酒薬とは異なり、副作用も少ないため、ほぼ全ての患者に使用できるという利点がある。
ただ、レグテクトは1日3回服用する必要があるため、断酒への強い意志と規則正しい生活が必要になる。また、飲酒欲求は脳内のさまざまな神経伝達物質が関係しており、レグテクトが働くのはそのうちの一つだ。そのため「レグテクト単体での効果はまだ限定的だ」と樋口医師は言う。
今後、日本においてより効果的なアルコール依存症治療を進めるためにも、新薬の開発・承認が急がれる。
節酒指導での治療も実験的にはじまる
アルコール依存症の治療で大きな問題点としてあげられるのが、推計109万人の患者のうち、治療を受けている人数が約8万人と極端に少ないことだ。肥前精神医療センター院長の杠(ゆずりは)岳文医師は、一般の病院でもアルコール依存症の治療が受けられるように、国立病院機構福岡病院の中にアルコール専門外来を09年に開設した。ここではアルコール依存症の治療目標に、これまでの断酒に加えて、飲酒量を減らす「節酒」も新しく選択肢として実験的に加えた。
「現在、予備軍を加えると、アルコール依存症患者は900万人程度いるとされています。一般の病院で、しかも節酒を治療目標に加えることで、より多くの人が依存症の治療につながるようにしたのです」(杠岳文医師)