母の日に蘭?「サイバー農家」宮川洋蘭の戦略

1370人の島から世界へ、根底にある思考とは

 転機は続きます。実はこの“母思い”、一時は宮川洋蘭の負債となった花でした。洋蘭栽培の匠として仰いでいた知り合いの生産者が引退する際、「私が大好きなデンドロビュームを日本中のお母さんたちに届けてくれないだろうか」と、宮川さんに苗を託します。しかしデンドロビュームは冬から春に咲く花であり、母の日向けではありません。

まわりからの反対を押し切って宮川さんは栽培に着手しますが、出荷できたのは予定数量の20%でした。経営は逼迫し、関係者の間で笑い者になったそうです。幸いにも、出産セールの前年にデンドロビュームはハウス一面に開花し、宮川さんのチャレンジは実を結びますが、この失敗談は公にしていませんでした。

かっこ悪いところが消費者の心に響く

出産セールを実施した2年後の2012年、このエピソードを知人に熱っぽく語ったところ、「それだけの思い入れがあるなら消費者に伝えてみてはどうか」というアドバイスをもらいます。

母の日に贈る花=カーネーションというイメージが浸透している中、蘭という新しい選択肢を加えた(写真:宮川洋蘭提供)

宮川さんは、一連のストーリーをスライドショーにした動画を制作し、サイトに埋め込むことに。すると、それまで10%前後だった転換率(アクセス数に対して商品が売れる確率)が29%にアップ。 5月1日~8日までの間に5000万円の売上を記録しました。

「情報発信と言うと、どうしてもいいところを見せたくなるものです。私もそうでした。かっこ悪いところはなるべく見せたくない。

しかし、“母思い”の生産が成功したのは、 失敗談を含めた紆余曲折の延長線上にあります。成功だけを切り取るのではなく、自分が恥ずかしいと思っているエピソードを含めたドラマこそが、消費者の方たちの心を響かせるのだと実感しました。私自身も消費者として何かを購入するとき、包み隠しのないリアルな生産背景を知りたい。自分だったら何を知りたいと思うかが、以降の活動のベースになっています」(宮川さん)

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