石破茂が指摘する「日本に必要な鉄道政策」 人口減少社会でも地方鉄道は活性化できる

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――ということは、コストが下げられるなら新幹線は全国に増えてもよい?

そう思いますね。やはり、つながってなんぼ。鉄道の特性である定時性、環境に対する負荷の少なさ、大量輸送能力というのは、日本人があまねく享受すべきものです。一生懸命に努力して頑張ろうと思っても、交通インフラがあまりに脆弱だと、力を最大限引き出せない。

中央一極集中にはそれなりの意味があった。中央において極限まで生産性を上げて、公共事業と企業誘致で地方に雇用と所得をもたらすという形で国家は運営されていた。「地方はそんな頑張らなくてもいいよ」っていう。

でも、昭和40年代や50年代と同じように公共事業をやる財政余力はない。地方の工場が同じものを大量生産するというビジネスモデルはもうありえない。地方のポテンシャルを最大限に引き出すためには、交通インフラが必要で、それってどんな形がいいんだろうなといつも考えている。

──都市と地方だけでなく、地方同士をつなぐ高速交通があってもいいのでしょうか。

いいでしょうね。何でもかんでも東京や大阪に向かわなければならないというものではない。昔は米子発名古屋行きという、とんでもない路線を走るディーゼル急行があった。インバウンドの人たちも有名な観光地は見飽きちゃうでしょ。本当の日本のすばらしさ、原風景は地方にこそ、あるんだよ。

私が地方創生大臣になって、「あっ」と思ったんだけど、ほとんどの道府県庁、市町村役場には経済職がない。役所が経済分析をしてどの部分のどの生産性を上げれば雇用と所得が増すのかという、経済分析に基づく自治体運営をやっているのを見たことがない。だから、つねに東京とつなぐのではなく、どこに販路を広げればうちの経済はよくなるんだというのは、意外や意外というのがあってね、鉄道に限りませんが、地域間の交通には可能性がまだあるような気がするんです。

鉄道はもっと市場調査を

石破茂(いしば しげる)/1957年生まれ。1986年衆議院議員初当選。防衛相、農林水産相歴任。2014年に初代の地方創生担当相に就任(撮影:尾形文繁)

川越の観光客が増えたのは横浜と鉄道でつながったからだけじゃない。市街地を全部メッシュで切って、どの地域に、何時に、何歳ぐらいの、男性・女性が来ているのかというのをすべて分析して観光客を増やした。今は日帰り客がすごく増えていて、どうやったら宿泊客が増えるのかを考えると、早朝か夜にイベントをやればいい。ではそのときに鉄道のダイヤをどうするか。

北海道だって、十勝バスは徹底的に市場調査を行って乗客を増やした。鉄道だって同じことができる。何時にどの列車を走らせてどの駅に止めれば客が乗ってくれるのか。口で言うほど簡単な話でないことは承知していますが、「誰がカネを出すんだ」みたいな話だけでは、ちょっとね。

――交通手段としての鉄道の強みはどこにあるのでしょうか。

定時性だと思います。あとは大量輸送性。これはバスよりもはるかに強い。少ないコストで多くのものを運べる。

昔は地方出張したときに夜行列車で帰るのが楽しみだった。特に秋田から寝台特急「あけぼの」に乗って、上野へ帰ってくるっていうのが大好きだったけど、今は夜行バスに取って代わられた。でもバスの場合は道路は税金で造ってくれるので、道路の建設費もバス会社が出すということになったらあの料金では走れない。それを否定はしませんが、少なくともオール・オア・ナッシングではなくて、輸送手段それぞれの特性をうまく生かすことができたらと思います。

(聞き手・本誌:大坂直樹、小佐野景寿、堀川美行)

堀川 美行 東洋経済 記者

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ほりかわ よしゆき / Yoshiyuki Horikawa

『週刊東洋経済』副編集長

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