「北朝鮮的な資本主義」のいびつすぎる内実

法律によって押さえ込もうとしているが…

農業法は、民間金融市場の存在を黙認している(写真:北朝鮮ニュース)

こうした資金調達を行うための具体的な手続き規定に関しては、農場法と企業法の、どちらにも見当たらない。だが、そうした規定が存在する可能性は大いにある。北朝鮮が秘密にしておきたい問題であるため、国外に情報が出てきていないだけだろう。

これを知ったら驚く読者もいるかもしれないが、北朝鮮の地方行政機関(地方人民会議)は、所管地域の市場秩序を適切に維持することが法律で義務づけられている。2010年に成立した住民管理法という平凡な名称の法律によってである。

市場の「活用」が模索されるようになっている

「第37条(市場運営における秩序の維持、および住民に負担を追わせることの禁止)

人民会議、および関連組織は、秩序だった市場運営を確立する義務がある。また、住民に物質的な負担を負わせてはならない」

適切な市場運営の義務を負わせる法律が存在するということは、市場経済が広範に広がり、北朝鮮の経済運営に欠かせないものとなっている状況を金正恩政権が認識していることを示している。ここに出てくる「物質的な負担」が何を指しているのかは定かでないが、地方の有力者が不当に利益を得ている状況に対し、中央政府が取り締まりに動いていることを意味しているのかもしれない。

北朝鮮において市場は単に合法なだけでなく、従来にも増して既存の国家経済に組み入れられるようになってきている。朝鮮労働党が支配するセクターや軍事部門で市場がどのような役割を担っているのかは、法律を見てもまるでわからない。ただ、国有部門において市場は一段と規制や統制の対象となる一方で、その活用がこれまで以上に模索されるようにもなっている。

こうした資本主義化のプロセスは1980年代に始まり、1992年には最高人民会議が可決した北朝鮮の法律にも姿を現すようになった。人民警察執行法による取り締まりに象徴されるように、金正日前最高指導者の治政では市場の力を規制し、押さえ込む動きが見られた。が、金正恩氏が後継者として表舞台に登場した2010年以降は、市場や市場メカニズムに言及する法律の数が増えている。本稿で紹介したのは、そうした法律の中でも特に重要なものの一部にすぎない。

(文:Peter Ward)

著者のピーター・ウォード氏は、韓国ソウル大学の社会学修士課程に在籍
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