定年後も年金を減らされずに働き続ける方法 「会社に再雇用される」のは正しいのか?

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そもそも支給停止になるのは厚生年金だけであり、基礎年金は停止されません。さらに言えば、年金の支給停止という仕組みは、「在職老齢年金」といって、厚生年金保険に加入しながら年金を受け取る人が、その対象になるのです。

「厚生年金に入らない働き方」をすればよい

だとすれば、厚生年金保険に入らない働き方をすれば、年金の支給停止はないということになります。具体的に言えば、自営業として働けば、いくら収入が多くても、年金支給が停止されることはありません。

こう言うと、多くのサラリーマンの人は「自分には経験がないのでとても自営業なんかできない」と思われるかもしれません。確かに会社を辞めた後に再雇用で働くことに比べれば独立して自営となるのはハードルが高いように思えます。

でもここで少し発想を変えてみてはどうでしょう。定年後、もし再雇用や転職といった形でサラリーマンを続けるにしても、雇用契約ではなく、業務委託契約で働くのです。少し前からIC(=インディペンデント・コントラクター)という働き方が出てきています。これは会社という組織に所属して働くのではなく、会社から業務委託を請け負って働くというやり方です。

この方法の良いところは、形式としては個人事業主ですから前述の年金支給停止はありません。また、自分の持っている技術をいちばんよく理解している前職の会社の仕事を請け負うわけですから、仕事もやりやすいし、要領もわかっています。契約形態が異なるだけです。会社にとっても雇用契約ではありませんから各種の社会保険料を負担しなくてもよくなりますし、必要がなくなればいつでも契約を解除することもできます。

さらに働くほうにとってはあくまでも雇用ではなく業務委託ですから、複数の企業から請け負っても問題はありません。何よりもこの方法だと「会社に雇ってもらう」のではなく「役務を提供して対価を受け取る」という対等な関係が築けるのが大きなメリットだと思います。

実を言うと、私自身、自分が定年になってしばらく再雇用で働いた時期がありましたが、そのときに、このような業務委託契約で働きたいということを会社に申し出たのです。ところが残念ながらそのとき(6年前)は「前例がない」という理由で認められませんでした。しかしながら、この数年で状況は大きく変わりつつあります。副業だってまだ認められない企業のほうが多いでしょうが、「モデル就業規則の改定」によって認められる方向に向かいつつあります。

また会社によっては、業務委託契約は法人対法人の話で、個人には認められないというケースがあるかもしれません。それなら個人会社を作ってしまえばいいのです。新会社法によって株式会社はわずかな資金でも設立することができます。私も社員は妻と2人だけという「超零細個人企業」ですし、実際に私の知り合いでもそういう形で個人カンパニーを作って業務委託を受けている人は何人もいます。

多くのサラリーマンの人は定年後、同じ会社に再雇用で働く選択肢を選ぶ人が多いでしょう。認められるかどうかは別として、従来と同じパターンではなく、将来的に発展できる可能性のある独立した働き方を提案してみるのは良いことではないかと思います。そしてこれこそが、まさにシニアにとっての「働き方改革」と言えるのではないでしょうか。

大江 英樹 経済コラムニスト、オフィス・リベルタス代表

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おおえ ひでき / Hideki Oe

大手証券会社で25年間にわたって個人の資産運用業務に従事。確定拠出年金ビジネスに携わってきた業界の草分け的存在。日本での導入第1号であるすかいらーくや、トヨタ自動車などの導入にあたりコンサルティングを担当。2003年から大手証券グループの確定拠出年金部長などを務める。独立後は「サラリーマンが退職後、幸せな生活を送れるよう支援する」という信念のもと、経済やおカネの知識を伝える活動を行う。CFP、日本証券アナリスト協会検定会員。主な著書に『自分で年金をつくる最高の方法』(日本地域社会研究所)、『知らないと損する 経済とおかねの超基本1年生』(東洋経済新報社)などがある。

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