やっと日本代表になれた。次はアジア代表 柳井正・ファーストリテイリング会長兼社長に聞く
――昨秋から衣料品業界の不振が続いています。各社軒並み苦戦する中で、ユニクロ好調の要因は。
うちが独り勝ちみたいなことをよく言われるんですが、そうじゃないですよ。うちは多少浮上していて、ほかがすべて負けているというだけ。決して一人で勝っているわけではないと思うんです。
この業界の人は業界内部のことしか考えていない。でもそうじゃない。消費者の財布というのはすべて一緒で、買う商品が違うだけ。だからむしろ、この業界の商品同士の競争じゃなく、ほかの業界の商品と競争していると考えないといけないんじゃないかなと思います。
小売業というのは、今まで恵まれすぎていたのかもしれないですね。店をオープンして、店数が増えれば自動的に売り上げが増えると思っている。でも今はそんなことはないでしょう。いい例が、GMS(総合スーパー)とか百貨店ですよ。売り場面積はどんどん増えているのに、自分たちは受け身のままで変わらない。だから需要の創造がない。売っている商品だってどこも一緒でしょう。売り場面積が増えるほど効率がダウンするのは当然です。自分たちの商品、商売の仕方が変わらないかぎり、需要の創造はできませんよ。
――今あるものを売っていてもダメ、ということですか。
この業界でいちばん悪いのは、自分たちが小売業だと思っていることです。商品はメーカーのもの、と。でも自分たちが仕入れた以上、それは自分たちの商品なんです。自分たちがどういう商売をするかということに関して責任を持たないといけないのに、最近は売れる商品がないとか、トレンドが変わらないとか、いいブランドがないとか、すぐ人のせいにする。もし売れる商品がないのであれば、どうするのかを考えないといけないはずです。
多分こういう商品を売ったら需要が起こるんじゃないか、という商品を売らなきゃダメですよ。それは企業によって違うと思います。たとえばイオンさんに要求されるもの、イトーヨーカドーさんに要求されるもの、しまむらさんに要求されるもの、すべて違うと思います。自社に要求されるものに関してもっと真剣に考えて、こういう商品をこうやって提供したら評価されるんじゃないか、って考えながら売り込んでいかないといけないんじゃないですか。
それから、トップが商売や商品のこと、現場のことを知らなすぎるのもよくないですね。
ただ「おまえたち頑張れよ」と言ってもダメ
――2007年8月期にシーズン衣料の不振で減益だったにもかかわらず、1年で立て直しました。
去年から、僕自身が商品本部長のようになって、営業をはじめ全部見ました。毎週月曜日に前の週の商売を見て、その週にやること、その月にやること、そのシーズンにやること、次のシーズンにやることについて、すぐに結論を出し、実行する。こういうサイクルが、それまでちょっと上滑りになっていたんですが、着実にできるようになったということだと思います。在庫を見て、売る商品が適切な数量で本当に準備できているかどうか。あるいは、チラシで訴求する商品は本当にそれでいいか。こういう単純な当たり前のことから手を打たないといけない。そういうことを一つずつやりました。
――柳井さん御自身で?
特に衣料品というのはシーズン商品が多いので、担当者は「今は売れてないけど、来月になったら売れるだろう」と考えることが多い。ところが、売れないものはやっぱり売れないんです。担当者だと、目先のこととか自分の都合で考えがちなんです。もっと客観的に、買いに来る人の視点で考えないといけない。その視点を持って見るべきなのが、担当者の上司であったり経営者なんじゃないかと思います。売り場やチラシが、われわれの方針どおりになっているかを具体的にチェックする。本当に当たり前のことなんです。
――これまでも、不振と回復を繰り返しながら成長してきました。
やっぱり人間は間違うんですよ。でもそこで、微調整をしたり、大規模に調整をする。順調なときだったら、それは社員の方向性も正しいので、正しいほうに変わっていくと思うんですけど、不調のときはトップダウンでやらないと。
トップダウンというと、ボトムアップに反する意味でとらえられがちなんですが、そうじゃないです。僕は、トップダウンがなければボトムアップはありえないと思っています。トップが明確な方針を示せば、末端の社員はその方針を理解して、現場の仕事に落とし込んで、自分で実践する。こうやって、トップとボトム両方向からやらないといけないんです。そういう会社じゃないとうまくいきません。ボトムの人にただ「おまえたち頑張れよ」と言っても、それはダメよ。トップの人が頑張らないかぎり。
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