「バイトは塾と風俗」、21歳女子大生の絶望感 「奨学金」は父親の生活費に消えている

✎ 1〜 ✎ 30 ✎ 31 ✎ 32 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

キャバクラをやめたら生活ができなくなる。奨学金を生活の足しにしている父親に返してほしいとは言えない。いくら仕事を探しても大学と塾の合間にでき、単価が高い仕事は風俗しかなかった。ある副都心のデリヘルに応募した。1年以上付き合っていた彼氏はいた。しかし、彼氏の顔がよぎることはなかった。

「割り切ってできる風俗はキャバクラよりいいかなって思いました。出勤してラブホテルかレンタルルームに出向いて、お客が待っている。その人に性的サービスする。それで本番がしたいって言われたら、いくらかおカネもらってセックスする。時間になったらシャワー浴びて解散みたいな、そういう仕事です。私、なにをしているんだろうって疑問はあるけど、ラクです。おカネがないから、仕方ないことだし」

風俗嬢になって1カ月。うそをつかなければならない関係が鬱陶しくなって、彼氏とは別れた。

小倉さんの厳しい状況は、親からの仕送りがない大学生の一般的な風景だ。簡潔にいえば、地方出身の単身大学生は水商売か風俗をしなければ、学生生活は送れない。彼女のように経済的な苦境に陥る女子大生は膨大に存在し、男子学生も高単価なアルバイトを求めてキャッチやスカウト、ホストなどに流れている。

父親の奨学金着服に関しては本当にあきらめているようで、もうどうでもいい……と投げやりな様子だった。このまま1000万円以上の負債を背負って保育士になっても、あまり明るい未来は見えない。

たまにどうやって死ぬのかも考える

彼女の未来は、現段階ですでに暗い。本人はどう思っているのか。「10年後、小倉さんはどうなっていると思う?」と聞いてみた。

「暗い話なんですけど、たぶん自殺していると思います。将来のことはよく考えるけど、幸せな自分は当然、生きている自分の姿も想像つかない」

表情ひとつ変えずに、そう言う。他人から同情を引きたいタイプではない。本心で言っているように感じた。

「自分が若いからなのかもしれないけど、人生経験がないからなのかもしれないけど。いくら考えても、将来の見通しは立たないです。保育士になって社会の一員になっても、どうしても10年後に結婚したり、出産したり、キャリアを積んで働いていたり、そういう普通に生きている姿が想像つかない。20年生きてきたけど、人生に対して肯定的な気持ちになれないし、これから生きてもいいことがあるとは思えない。今だって実際、知らない男の人相手にカラダを売っちゃっているわけだし、そうやってどんどん落ちていくのかなって」

たまにどうやって死ぬのかも考えるという。

「飛び込みは人に迷惑がかかるから、首吊りかな。そういうことは本当に頻繁に考えていて、いつそうするかわからないけど、いずれそういうことになると思う。これまで生きてきて、人とかに対して全然、なんだろう、プラスの感情を持てなかった。親もそうだし、これから出会う人も、そういう人ばかりなのかなとか。大人になってもっと苦しくなるなら、どこかで終わりにしたいなって」

なにも知らされぬまま突然亡くなった母親、不倫して奨学金を着服する父親、家族を延々と罵る祖母、頑張っても学生生活が送れない東京、キャバクラで女性を罵る客、本番を頼み込んで腰を振る男性客、1000万円を超える負債――彼女がこの5年間で見た風景だ。

「やっぱり、すべては母親が亡くなったときかな。死んじゃうなら、やっぱりなにか言ってほしかった。お母さんが私に会いたくなかったのかもしれないし、わからない。裏切られたのかな」

話は終わった。死んでから母親に裏切られた、と心の底で思っている。東京に来て、父親に奨学金を取られたと知っても「あ、そう」としか思わなかった。

本連載では貧困や生活苦でお悩みの方からの情報をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
中村 淳彦 ノンフィクションライター

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

なかむら あつひこ / Atsuhiko Nakamura

貧困や介護、AV女優や風俗など、社会問題をフィールドワークに取材・執筆を続けるノンフィクションライター。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買など、さまざまな過酷な話に、ひたすら耳を傾け続けている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『私、毒親に育てられました』(宝島社)、『同人AV女優』(祥伝社)、『パパ活女子』(幻冬舎)など多数。Xアカウント「@atu_nakamura」

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事