キャバクラをやめたら生活ができなくなる。奨学金を生活の足しにしている父親に返してほしいとは言えない。いくら仕事を探しても大学と塾の合間にでき、単価が高い仕事は風俗しかなかった。ある副都心のデリヘルに応募した。1年以上付き合っていた彼氏はいた。しかし、彼氏の顔がよぎることはなかった。
「割り切ってできる風俗はキャバクラよりいいかなって思いました。出勤してラブホテルかレンタルルームに出向いて、お客が待っている。その人に性的サービスする。それで本番がしたいって言われたら、いくらかおカネもらってセックスする。時間になったらシャワー浴びて解散みたいな、そういう仕事です。私、なにをしているんだろうって疑問はあるけど、ラクです。おカネがないから、仕方ないことだし」
風俗嬢になって1カ月。うそをつかなければならない関係が鬱陶しくなって、彼氏とは別れた。
小倉さんの厳しい状況は、親からの仕送りがない大学生の一般的な風景だ。簡潔にいえば、地方出身の単身大学生は水商売か風俗をしなければ、学生生活は送れない。彼女のように経済的な苦境に陥る女子大生は膨大に存在し、男子学生も高単価なアルバイトを求めてキャッチやスカウト、ホストなどに流れている。
父親の奨学金着服に関しては本当にあきらめているようで、もうどうでもいい……と投げやりな様子だった。このまま1000万円以上の負債を背負って保育士になっても、あまり明るい未来は見えない。
たまにどうやって死ぬのかも考える
彼女の未来は、現段階ですでに暗い。本人はどう思っているのか。「10年後、小倉さんはどうなっていると思う?」と聞いてみた。
「暗い話なんですけど、たぶん自殺していると思います。将来のことはよく考えるけど、幸せな自分は当然、生きている自分の姿も想像つかない」
表情ひとつ変えずに、そう言う。他人から同情を引きたいタイプではない。本心で言っているように感じた。
「自分が若いからなのかもしれないけど、人生経験がないからなのかもしれないけど。いくら考えても、将来の見通しは立たないです。保育士になって社会の一員になっても、どうしても10年後に結婚したり、出産したり、キャリアを積んで働いていたり、そういう普通に生きている姿が想像つかない。20年生きてきたけど、人生に対して肯定的な気持ちになれないし、これから生きてもいいことがあるとは思えない。今だって実際、知らない男の人相手にカラダを売っちゃっているわけだし、そうやってどんどん落ちていくのかなって」
たまにどうやって死ぬのかも考えるという。
「飛び込みは人に迷惑がかかるから、首吊りかな。そういうことは本当に頻繁に考えていて、いつそうするかわからないけど、いずれそういうことになると思う。これまで生きてきて、人とかに対して全然、なんだろう、プラスの感情を持てなかった。親もそうだし、これから出会う人も、そういう人ばかりなのかなとか。大人になってもっと苦しくなるなら、どこかで終わりにしたいなって」
なにも知らされぬまま突然亡くなった母親、不倫して奨学金を着服する父親、家族を延々と罵る祖母、頑張っても学生生活が送れない東京、キャバクラで女性を罵る客、本番を頼み込んで腰を振る男性客、1000万円を超える負債――彼女がこの5年間で見た風景だ。
「やっぱり、すべては母親が亡くなったときかな。死んじゃうなら、やっぱりなにか言ってほしかった。お母さんが私に会いたくなかったのかもしれないし、わからない。裏切られたのかな」
話は終わった。死んでから母親に裏切られた、と心の底で思っている。東京に来て、父親に奨学金を取られたと知っても「あ、そう」としか思わなかった。
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