エーザイ、抗がん剤で「6100億円提携」の勝算 "難題"アルツハイマー薬開発も加速できるか
提携効果は大きい。「単独で開発・販売した場合と比べ3倍の売り上げが見込める」とエーザイの内藤晴夫社長は会見で自信を示した。レンビマの年間売上高は2016年度に215億円だった。これを、2026年に予定される特許切れ直前に、5000億円を目指す。先述した販売マイルストンなども含めた営業利益も年約2000億円のピークに到達するというのが会社の胸算用だ。その3分の2がメルクとの提携からもたらされるというのだ。
ただ、これは両社が共同で進めるレンビマの開発・販促などがすべてシナリオどおりにいったという条件付きだ。特に不確定要素が強いのは提携による想定収入の過半を占める販売マイルストンだ。あらかじめ両社が合意した一定の期間内に、レンビマが一定の販売額に到達した場合にのみ支払われるため、未達なら巨額のカネは絵に描いた餅になる。
しかし、国内大手とはいえグローバルでは売り上げランキング20位にも入らないエーザイが、レンビマの世界での拡販を単独で成し遂げるのは至難の業であることもまた事実である。その点、メガファーマの一角・メルクの力を借りれば、この目標に近づくのは確かだ。エーザイは妙手を打ったということかもしれない。
オプジーボと熾烈な戦いを繰り広げるメルク
メルクがこの提携に大枚をはたく理由は何か。それは、がん治療薬市場が製品開発や販売の両面で、医薬品の世界での主戦場になっているからだ。ここを制さなければメガファーマとて地位は安泰とはいえない。メルクはこの市場では主力薬のキイトルーダを擁し、小野薬品工業などの先発薬「オプジーボ」と、目下最先端のがん治療薬分野「免疫チェックポイント阻害薬」のトップの座をめぐり、つばぜり合いを演じている。
エーザイのレンビマとメルクのキイトルーダはがん細胞縮減のメカニズムが異なる。この2つの薬を併用した治験では、先頃、腎細胞がんや子宮内膜がんでそれぞれの単剤治療を大きく凌駕する効果が確認された。腎細胞がんにおける併用療法は、今年1月FDA(米国食品医薬品局)から画期的治療法に認定され、早期承認が期待される。
現在治験中の非小細胞肺がん、肝細胞がんなど7種類のがんをはじめ、近々治験開始を狙うほかの複数のがんにおいても、「血液がんはともかく固形がんなら併用療法で高い成果が期待できる」とエーザイでがん研究のリード役を担う大和隆志執行役は自信をのぞかせる。
ライバルとの競争上、メルクにとってもレンビマとキイトルーダの併用はキラーコンテンツになりうる。自社の強力な営業基盤をフルに動かし、全世界に関係を築く医師やそれを通じて患者に両剤併用のメリットを訴求すれば、レンビマだけでなく、キイトルーダの販売も拡大できる。
裏返せば、他社にエーザイとの提携を許せば、大きなリスクになるということだ。「競争が激しいから、優良な資産を先に囲い込もうということだ」UBS証券の関篤史アナリストはメルクの狙いをそう読む。メルクは、2017年7月にも英アストラゼネカとそのがん治療薬「リムパーザ」などに関する9000億円級の共同開発・商業化の戦略的提携を結んだばかり。狙いは今回と同じく、有力ながん治療薬を先に自陣に入れ競争優位を確保することだ。
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