2018年後半にも日本銀行が直面するリスク 2期目黒田総裁の次の一手は出口か緩和か

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しかし、早くも市場には懸念材料が出てきた。2月からの米国発の株式市場の下落に端を発して、円高が進んだことだ。購買力平価からいえば1ドル=100~110円は妥当な範囲と考えられ、現状の1ドル=105円が高すぎるとはいえない。だが、これが続けば、輸入物価の下落を通じて、夏ごろから消費者物価にもマイナスの効果が現れる。1ドル=100円といった相場が定着していくと、消費者物価上昇率には0.5%~1%ポイントの下押し圧力が働く。

また、FRBのパウエル議長は現状で年4回の利上げを行う構えであり、市場参加者はどこかの時点で、米国の金利が景気に引き締め的となる水準に入っていくと見ており、金融市場は不安定になりやすい。鉄鋼・アルミ産業保護のための輸入制限に見るような、トランプ大統領による不意打ちのリスクは別としても、米国経済の先行きに懸念が出れば、ショック的に1ドル=100円割れに突っ込むようなこともありうる。そうなれば、むしろ政府からは日銀に追加緩和すべきという圧力がかかるだろう。

年後半にはもう一つ不安材料がある。中国だ。3月5日から開幕した全国人民代表大会(全人代)で2018年の成長率目標を6.5%に据え置くとしたが、2017年は6.9%に上振れしていたため、実質的には中国経済の減速を容認するということになる。2017年の世界経済の拡大は中国の回復にけん引されたものだ。とくに、日本の輸出は中国の半導体を中心とする生産拡大により半導体製造装置をはじめ機械などの資本財需要が活況だったことが大きい。中国のバブル潰しが大きな金融ショックに発展する可能性を脇に置くとしても、中国経済が減速していけば、日本への影響は大きい。

マイナス金利の幅を大きくする可能性

追加緩和を迫られた場合、日銀はどういう手段を取るだろうか。まず、円高ショックなどの場合、基本的には現在マイナス0.1%に固定しているマイナス金利の深掘り(マイナス幅の拡大)だろう。リスク回避的に国債など円に資金が逆流してくるときには、短期金利の押し下げによって、円の魅力をなくすことで対抗できるからだ。

黒田総裁が昨年11月のスイス・チューリヒでの講演で、低すぎる金利によって預貸金利ザヤが縮小し、銀行の金融仲介機能を阻害する副作用をもたらす「リバーサルレート」に言及して話題となった。だが、マイナス金利の深掘りによってイールドカーブ(残存期間ごとの利回りをプロットして描かれるカーブ)をスティープ化(長短の金利差を大きく)すれば、銀行はマイナス金利で市場から資金調達して長い年限の金利で運用することで、その場しのぎではあるが、利ザヤを稼ぐこともできる。日本銀行は実際のイールドカーブが均衡イールドカーブを下回るように操作するとしており、状況次第では現在ゼロに誘導している長期金利も引き下げ対象になることもあるだろう。

しかし、わずかな金融市場の動揺にも反応し、追加緩和を行うことはもちろん、望ましいことではない。マイナス金利政策の長期化、債券管理相場の長期化によって資源配分はゆがめられており、長期的には成長の可能性をますます低くしている。

なお、リフレ派の論客の岩田規久男副総裁の後任として、同じくリフレの主張を展開してきた若田部早稲田大学教授が入るが、再び日銀が量的緩和を拡大することはないだろう。すでに黒田日銀は事実上、量を目標から外しており、前年比でプラスでさえあればよいという姿勢だ。2%を急ぎ達成するための追加緩和政策を打ち出すこともないと考えられる。

量的質的金融緩和によって、日銀のバランスシートは対GDP(国内総生産)比で100%に迫る勢いで、まだ止まらないが、2年はおろか、5年たっても2%は実現できなかった。一方、FRBはバランスシートを25%まで拡大したところで、目標を達したとして、手仕舞いに入った。日銀の出口はいっこうに見えない。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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