池澤:25年前というと、スマホも誕生していない時代です。25年間、IT業界を中心に世界が大きく変化してきましたが、この変化について、どうお感じになりますか。
まつもと:25年間、IT分野は大きく発展しましたが、Rubyの根幹にかかわる環境は意外と変わりませんでした。
たとえば、Rubyをつくり始めた当初のOSはUnixでしたが、現在サーバーとして広く使われているOSもUnixをベースとしたLinuxです。macOSもUnixベースですし、最近はWindowsすらUnixに近づいてきています。CPUも未だにインテルが強くて、たまにARMを見かけるといった具合で、あまり変わっていません。
逆に変わってしまっていたら、ここまで発展させることができなかったかもしれませんね。
ただ、根幹にかかわる以外の部分は大きく変わりました。コンピューターの性能がよくなったり、値段が安くなったりしたことに加えて、最大の変化は、インターネットの普及ですね。Rubyはインターネットの普及期に生まれた言語だったので、インターネット普及の波、特にWWW(ワールド・ワイド・ウェブ)普及の波にうまく乗れたことが、Rubyが普及した一番の要因だと思います。
WWWの通信には、HTTP(ハイパーテキスト転送プロトコル)というプロトコルが使われているため、テキスト処理が得意なRubyのようなスクリプト言語が活躍することになったわけです。
それに加えて、コンピューターが1台で完結する世界に比べると、複数のコンピューターが繋がり合うインターネットの世界はより複雑な処理が必要です。幸い、Rubyはとても柔軟性の高い言語だったので、そういった複雑なものを扱うことに適しています。現在多くのサービスで利用されているWebアプリケーションフレームワークであり、Rubyが普及するきっかけにもなった「Ruby on Rails」も、Rubyの持つこうした性質ゆえに生まれたものなのだと思います。
将来を予測して設計したわけではなかったので、Rubyは偶然に偶然が重なって、ここまでこられたということになりますね。
普及を確信したのは…
池澤:Rubyの普及を確信したのはいつごろですか。
まつもと:1995年にRubyをリリースしてから2年くらい経ち、出版社から「Rubyの本を書きませんか」という話がきました。
当時は会社の仕事もありましたし、空いた時間は趣味でプログラムを書いていたこともあって、原稿はなかなか進まず、それから2年後の1999年にようやく『オブジェクト指向スクリプト言語Ruby』を出版しました。
本来、技術書はニッチなのでなかなか売れないのですが、この本はなんと1万5000部以上も売れました。こんなにたくさんの人が興味を持ってくれているならいけるかもしれないと、ここで初めて実感したのを覚えています。
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