フロリダ高校「乱射事件」、水面下で進む審議 「隠し銃携帯許可法」が審議されている

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その大きな原因は、フロリダでは銃規制が緩やかで、好きな銃を欲しいだけすぐ手に入れることができるからだ。銃を売る見本市「ガン・ショー」もフロリダ各地で開かれるから、銃愛好家にとっては、まるで天国のような州なのだ。

たとえば、銃の購買の際、小火器(ライフル、ピストルなど)だけでなく、重火器でも身元確認書類などの提示すら必要ない。所有者名の登録も必要ない。今回パークランドの高校で使われたAR-15のような殺傷力の高いセミ・オートマティック・ライフルなどを規制する法律もない。さらに「隠し銃携行許可法」(Concealed Carry Reciprocity Act)に基づくライセンスを取れば、誰でも好きなピストルなどをポケットやハンドバッグに隠し持って出かけることができる。

フロリダの隠し銃携行許可は、全米でももっとも広く知られた州政府の携行許可であるが、さすがに、学校や駅、空港、警察署などでは装てんした銃を持ち込めないことになっている。しかし、ここが大事な点なのだが、隠し銃携行許可を持つフロリダ住民は同様の法律を持つ全米35州に、自分の銃を持ち込むことができる。

もちろん、ニューヨークやカリフォルニアなど、銃規制の厳しい州では、隠し銃を持っていることが発覚すると逮捕され、収監される。

たとえば、ペンシルベニア州フィラデルフィアからニュージャージー州アトランティック・シティまで運転してきた女性が、ターンパイク(高速道路)で警官に車を停められた際、車内の拳銃が見つかり、その場で逮捕された。彼女はペンシルベニアの隠し銃携行許可がニュージャージーで通用しないことを知らなかったと訴えたが、10年の刑を言い渡されたのである。きわめて厳しい法規制が敷かれている。ところが、である。

この女性は結局トランプと親しいクリス・クリスティー前共和党ニュージャージー州知事の恩赦によって釈放された。それ以来、「隠し銃携行許可」を全米に広げようという運動が本格化した。2013年にはたった3票差で下院を通過しなかったが、トランプ政権になってから、昨年12月6日にはすでに下院を通過し、現在では上院に持ち込まれようとしているのである。

危機感に包まれる警察

わたしは「隠し銃携行許可法案」が審議されたことも聞いたことがなかったし、まして、いつの間にか下院を通過していたなど知らなかった。大きく報道されていないからに違いない。CBS 放送のニュース番組『60ミニッツ』(2月11日放映)で初めて知り、目を疑った。

もし、この法案が上院を通過して全米で「隠し銃携行許可」を持つ18歳以上がニューヨークの街角に現れることを想像しただけで、悪夢以外の何ものでもない。もし、地下鉄で隣に座っている人が装てんした銃をもっていたら、誰かと口論になって、すぐさま、銃を構えることだってありうるだろう。隣にいるわたしが巻き添えをくらって流れ弾に当たることなど日常茶飯事になるに違いない。

だいたいアメリカ人は辛抱がなく、カーッとなる短気な人が多いように感じるので、銃を携行していたら、まず、撃ってしまうだろうと思う。これまで殴り合いで済む程度だったものが、殺人にまで及ぶかもしれない。

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