安倍政権、与党内の暗闘で「9条改憲」は迷路に

自民内で「安倍おろし」の政治的謀略も浮上

ただ、最近の大手メディアの世論調査の結果をみる限り、9条改正については「賛成」を「反対」がやや上回るという傾向が続いている。首相自身も周辺に「国民に丁寧に説明して理解を得ないと、発議しても国民に否定されかねない」と不安を漏らしている。国政選挙が専門の自民党関係者も「9条改正では国民の賛否がほぼ半々とされるが、世論調査を詳細に分析すると、消極的賛成派と確信的反対派が並び立つ結果が多い。したがって投票率が下がれば下がるほど、賛成より反対の割合が拡大する可能性が大きい」と指摘する。

こうした状況の中、ここにきて自民党内の反安倍勢力からは「慎重論ばかり主張せず、逆に安倍改憲を後押しすべきではないか」との声ももれてくる。「あえて改憲実現に協力することで首相を年内発議に踏み切らせ、国民投票での否決につなげる」(改憲慎重派)という"政治的謀略"だ。首相が提起した9条改正による自衛隊明記が国民投票で否決されれば、首相も退陣せざるをえないという読みで、「3選した1強首相を早期退陣に追い込む唯一の戦術」(同)とみている。

党長老の伊吹文明元衆院議長も「国民投票で否決されれば、当然、首相の責任が問われる」と指摘しており、永田町でも首相の提起に沿った改憲案が国民投票で否決されれば、「衆院での内閣不信任案可決以上の事態で、即時退陣というのが政治の常道」(自民若手)との見方が支配的だ。

超現実主義なら「危険な賭け」は避ける?

国家のリーダーにとって、「国民投票は両刃の剣」でもある。最近では2016年6月に英国で実施されたEU(欧州連合)残留の是非を問う国民投票で「離脱」が上回ってキャメロン首相が、さらに、同年12月にはイタリアで上院の権限を縮小する改憲案が国民投票で否決されてレンツィ首相が、いずれも辞任に追い込まれた。これを踏まえ、G7首脳の中で最長老のメルケル・ドイツ首相は昨年、「欧州では2人の首脳が国民投票で失敗している。あなたも気をつけたほうがいい」とわざわざ首相に忠告する場面もあったとされる。

今回の9条改正論議では、「自衛隊明記の可否」という本質論よりも、「安倍改憲の是非」を問うという流れが強まっているようにみえる。こうした現状について専門家は「政権への評価が改憲内容への賛否に直結するような国民投票は後世に禍根を残す」(有力憲法学者)と警鐘を鳴らす。

首相の再登板から5年2カ月にわたる政局運営をみると、「首相の政治手法は理念追求型ではなく超現実主義」(側近)との見方が多い。昨年の憲法記念日に「安倍改憲」を打ち出した首相は、その後周辺に「大きな石を投げたが、どこまで進めるかは国民の反応次第」と肩をすくめたとされる。それだけに、永田町では、「首相がいくら改憲実現への意欲を示し続けたとしても、今後、内閣支持率の低下などで国民投票での否決リスクが高まれば、年内発議も含め、改憲という危険な賭けには踏み切るはずがない」との見方もじわりと広がり始めている。

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