新幹線「札幌駅」、利用者無視のJR北海道案 「大東案」は現在の駅から離れすぎだ

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在来線に支障があるというJR北海道の言い分に対して、鉄道・運輸機構は「1日26本増発しても、そのほかの在来線列車への影響は最低限に抑えられることが判明した」としている。これはそのとおりだと思う。

JR札幌駅。JR北海道の主張する「大東案」はここからかなり離れる(撮影:梅谷秀司)

『JTB時刻表』2月号の函館本線のページを開き、札幌駅の列車の時刻表を見ると、通勤時間帯にもかかわらず、10分以上プラットホームを占有している列車が散見される。しかも、折り返しではなく直通列車だ、つまり停車時間が長すぎる。いったん引き上げ線に待避して別の列車にするとか、直通列車のダイヤを見直して2分程度に停車時間を短縮すれば、もっと多くの列車を発着できる。

鉄道・運輸機構ができるというものを、JR北海道ができないと言い張るなら、それはもうJR北海道の技術力、運用力の問題ではないか。

北海道新幹線が札幌延伸開業する2031年春までの13年間に、JR北海道の運転人員を育てるという考え方はないか。JR北海道の技術レベルで運用できるように、線路(分岐や引き上げ線)、信号などを改良する方法もあるはずだ。JR北海道に約55億円を負担する用意があるというが、おカネを使う場所はこちらではないか。

もし品川駅の新幹線ホームが離れていたら?

JR北海道は大東案について、現駅案より優れた点として、プラットホームの広さを挙げる。現駅案は島式ホーム1面2線で、プラットホームの幅が狭い。大東案は対向式プラットホーム2面2線で、2つのプラットホームの幅は10m以上を確保できるという。それは確かにメリットだけれども、現駅案のプラットホームが狭くてダメとは言い切れない。東海道新幹線の品川駅はかなり狭く、プラットホームに駅弁屋も待合室もないけれども、階上の駅舎に売店はそろっていて、特に不便は感じられない。

東海道新幹線品川駅はプラットホームが狭くても在来線に並行しているから便利なのだ。もし、もっと広いプラットホームを八ツ山橋や田町側に作っていたらどうなるか。品川で延々と歩いて新幹線に乗り換えるくらいなら、京急で羽田空港に向かって飛行機に乗ってしまおうという発想も出てくるかもしれない。

どうしても在来線を運用できないので現駅案がだめだというなら、そもそもその程度の運用力しかない鉄道事業者に新幹線を任せられるか、という議論も必要ではないか。鉄道ファンなら誰もが知っているように、札幌駅の運行本数よりもっと多い列車数を、名古屋鉄道は名鉄名古屋駅の3面2線で賄っている。京急電鉄の品川駅も2面3線でこなしている。なぜJR北海道はそれができないのか。正々堂々、公開してほしい。

そしてなにより、決定的な判断ができるリーダーの不在。これがこの問題の最大の不幸だ。鉄道・運輸機構は国の機関、JR北海道の株主は国だ。政府が「伝家の宝刀を抜く」としたら、誰がその采柄を握るのか。

杉山 淳一 フリーライター

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すぎやま じゅんいち / Junichi Sugiyama

東京都生まれ。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社でパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当したのち、1996年にフリーライターとなる。IT、PCゲーム、Eスポーツ、フリーウェア、ゲームアプリなどの分野を渡り歩き、現在は鉄道分野を主に執筆。鉄道趣味歴40年超。全国の鉄道路線完乗を目指してコツコツと旅を重ねている。鉄旅オブザイヤー選考委員。基本的に、列車に乗ってぼーっとしているオッサンでございます。

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