「新専門医制度」は医師にも患者にも"迷惑"だ 地方の医師不足を助長、新制度は問題だらけ

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山本医師が師事する医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師は、今後の医師のキャリアについてこう話す。

「今は自分でキャリアを考えないといけない時代です。誰もが専門医を取るならば、それは単なるワン・オブ・ゼムです。自分だけの付加価値を見つけていけなければ国際競争の中では生き残れません」

強制的に行かせても長期的には定着しない

上医師は若手医師のへき地への強制配置にも反対する。

「強制的に行かせても長期的には定着しません。特に医師の偏在の原動力は女性医師です。女性医師は将来子どもの教育を優先し、都市部に戻ってくる傾向が強いからです」

本記事は朝日新聞出版 『AERA Premium 医者・医学部がわかる 2018 』(AERAムック)からの転載です(上の書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

専門医資格を取るまでの期間は、妊娠や出産など女性のライフイベントと重なることも多い。地域の関連病院への派遣やへき地勤務は、専門医取得の障壁になりかねない。必要なのは、地域で長く働き続けられるような労働環境と柔軟な選択肢だ。

前出の渋谷医師は「制度に巻き込まれるより、うまく活用してほしい」と話す。

「プロとしていかに自分が自立して生きるか、どういうキャリアを積みたいのかを自分の頭で考えることです。大学病院にいたら安泰という時代はもう終わりました」

新制度は始まったばかりだ。これから医学部に入る学生が専門医研修を受けるころには、制度に変更があるかもしれない。ただ、旧来の慣習と利権を捨て去って前に進まなければ、若手医師の未来と医療を受ける患者の利益にはつながらないだろう。

井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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