ユニクロがスペインで「ZARA」に勝てないワケ 初出店から4カ月、今の評価は?

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現在、スペインの失業率は約17%で、若者の失業率は直近で38%程度。5割を超えていた頃と比べるとだいぶ減ったとはいえ、若者の失業率の高さは深刻な社会問題となっている。こうした中、プライマークはザラやマンゴが得意とする30代だけでなく、若者から中年層まで幅広い層から支持を得ているわけだ。

こうした状況を考えると、スペイン人にとってユニクロの服は「若干高い」というカテゴリに入る。たとえば、ユニクロが得意とする「ウルトラ・ライトダウン」の類似商品を、ザラも販売しており、その価格はジャケットが39.95ユーロ(5390円)で、コートが49.95ユーロ(6740円)と、本家ユニクロ(ジャケットが69.90ユーロ=約9430円、コートが99.90ユーロ=約1万3490円)よりはるかに安い。

なぜバルセロナに出店してしまったのか

激安の流れでバーゲンの値引き率も大胆になっている状況を鑑みると、今後この差が開く可能性も考えられる。そうしたとき、ユニクロはこの仁義なき値下げ合戦に参戦するのかどうか。参考までに、スペイン人1人当たりが被服にかける費用は、2014年は年間平均508ユーロ(約6万9000円)程度。年収の12%程度とする別の調査もあるが、いずれにしても、激安ブームが収まる気配は今のところない。

ファッション誌の『グラムール』は、ユニクロが進出した当時、「ユニクロとザラはまったく反対であり、だからこそ消費者は魅了される」といった内容でユニクロを紹介。その違いとして、「流行に対しテクノロジー」「即効性に対し持久性」「フリルに対してシンプル」だと挙げ、ユニクロはスペインの消費者にとって「洗練されたファッションを提供する」と評している。

が、出店から4カ月経った現時点の状況を見ているかぎり、ユニクロの強みである品質や耐久性の高さ、シンプルなデザインはそこまでスペイン人に刺さっていないように見える。そのシンプルさや使いやすさから「ライフウエア」をうたい、生活に溶け込んだ洋服の在り方を提案しているユニクロだが、ひょっとしたらスペイン人がこうした感覚を本当に「洗練されている」と受け止めるにはもう少し時間がかかるのではないか。

最後に、ユニクロがマドリードではなく、バルセロナを1、2号店に選んだ点について個人的な見解を述べたい。筆者はこの戦略をミスジャッジだと考えているからだ。前述の通り、マドリードの人口はバルセロナの2倍に上る。観光客数という観点では、バルセロナの方が多いが、純粋な消費者の人口で考えるとマドリードのほうがはるかに多いわけである。

また、商魂魂がたかくましいとされるカタルーニャ人は、価格にも敏感であり、ユニクロの価格を「バリュー」と受け止めるかどうか微妙だ。加えて、バルセロナを擁するカタルーニャ地方は現在、独立問題で揺れており、その経済はいくぶんが低調気味で、流通企業の売り上げも落ちていると聞く。ユニクロは2020年に、マドリードに第1号店を出店するとしているが、スペインで本気で戦う気があるのであれば、もう少し早いタイミングで出店すべきだろう。

白石 和幸 貿易コンサルタント

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しらいし かずゆき / Kazuyuki Shiraishi

1951年生まれ、広島市出身。スペイン・バレンシア在住40年。商社設立を経て貿易コンサルタントに転身。国際政治外交研究も手掛ける。著書に『1万km離れて観た日本』(文芸社)。

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