日本は今こそ「核問題」を真剣に議論すべきだ 石破茂×丹羽宇一郎対談<前編>
丹羽:紙でできた傘かもしれない(笑)。
石破:それでは困ります(笑)。ですから、NATOの核を持たない国々は、アメリカとの間で、事務レベルでも政治レベルでも核抑止力の実効性をつねに検証しています。これと同じシステムを日米間にも作る必要があるということです。特にいま、何をやるかわからない北朝鮮が核ミサイルを持っていると主張しているわけですから。
丹羽:日本列島はすべて北朝鮮の核ミサイルの射程内ですよね。
石破:核弾頭の有無はともかく、日本列島を射程範囲とするミサイルは、15年も前から200~300発ほど保有していると言われています。そして最近、アメリカも射程内に収めようとしています。そういう状況だから、今こそ、核抑止力の実効性の検証と担保のシステムを構築すべきだと申し上げているのです。
使えない兵器が抑止力になるのか
丹羽:核兵器の応酬となれば1発、2発じゃないでしょうから、撃ち合いになれば地球は滅びちゃう。公式、非公式を合わせれば10カ国が核を持っているわけですから。でも、そんなことをやっちゃいけないということをわかりながらやるのが人間だから、やるかもしれないけれども、そこは自分の国だけじゃなくて世界を滅ぼしちゃう。最後の最後に踏みとどまる、それくらいの知恵と分別は人間にあるだろう、と私は思います。
石破:それはそうだと思います。ですから、アメリカとロシア、あるいはアメリカと中国の間には核抑止はやっぱり成り立っていると思います。そこはいわゆる「恐怖の均衡」があって、お互いが撃ち合ったら地球はなくなっちゃうからやめようねという。
丹羽:そうすると、核兵器というものは誰も使えないのだから、持っていてもあまり抑止力にはならないのではないか。
石破:そこはどうでしょうか。仮に通常兵器だけだったら、核兵器よりももっと世界は安全になるのかというと、そうじゃないような気がしています。こう言うと核廃絶を唱える方から「このばか者」としかられるかもしれませんが、いわゆる大量破壊兵器、NBCと言われる核兵器と生物兵器と化学兵器ですね、これらの兵器と比べると、おそらく通常兵器のほうが使用に対するハードルは低いだろうと思っています。
核だと何百万人、何千万人と死んでしまうから怖くて使えない。でも通常兵器だったら、そんなにはいっぺんに死なない。市民を虐殺するんじゃなくて相手の基地だけたたくとか、指導者だけたたくみたいな話ですが、これはどんどんエスカレートしていく可能性が高い。
冷戦後、「恐怖の均衡」がなくなった世界では、やれ人種だ、宗教だ、民族だ、経済格差だというので、あちこちで戦が起こるようになったと私は思っています。ですから大国同士では核の抑止力というのは効いているし、今後も「使えない兵器」としての核の意味はあるんだろうと私は思っております。それがバランス・オブ・パワーの理論の核になるのだと。
丹羽:大国だけが核技術を持っていれば、それは有効だと思うんですけれども、ほとんどの国が核を持ったら、力と力の対抗で、あそこが10発持てば俺は15発持つとか、核兵器の増産競争になっていく。結局、核廃絶というよりも、1回、核凍結条約を国連で、ある一定年限を区切って結んで北朝鮮の動きを止めさせる。そういうことをやるためには、核保有国10カ国なら10カ国が廃絶じゃなくて凍結――持っているものを2年間凍結して、その間に、お互いにこれからの姿というものを議論していったらいいんじゃないかと思うんですが。そういう動きは難しいんですか。
石破:それは凍結もできればいいなと思いますが、私たちは実務屋なものですから。
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