ICOの魅力は何なのか。現在、広い投資家層から企業が資金を調達する手段には、主に株式発行と債券発行の2つがある。しかし、ICOはこのどちらとも違う、いわば「第3の資金調達手段」である。
仮想通貨は株式とは異なるので、株主が企業に対して経営に関与できるような議決権も分配金を受け取る権利もない。このため、株式の追加発行、すなわち増資で資金を調達するのと違って、ICOは既存の株式の価値を希薄化しない。よって、株価にも悪影響を与えない。
また、一部の返済条件付きのものを除き、発行企業は集めた資金を返済する義務はない。よって、債券でもない。このため、発行体の債務比率を上昇させてバランスシートを悪化させることもない。
要は、企業はICOを行っても、既存の株主や債券保有者の権利を侵害することがない。むしろ、安価な資金調達で業容を拡大できるので、先の米コダック社の例のように、株価の見直しの要因となる。
しかも、手続きはシンプルだ。ホワイトペーパーという説明書をウェブにアップするなどの手続きは必要だが、株式のIPOのように会計士や証券会社との煩雑なやりとりに加え、取引所の申請待ちで3〜4年かかる、などという長いプロセスは必要ない。
ハードルは法律・会計の不透明さ
これらのメリットの割に、ICOがほとんど普及していないのはなぜか。日本では、新興企業の上場が世界一容易だとされ、ICOという新奇な手法に飛びつく動機が薄いことも要因の1つだろう。しかし、それ以上に、法的な位置づけや会計上の取り扱いが固まっていないことが大きなボトルネックになっている。
たとえば、1月15日、IT企業のメタップスは、異例の深夜の決算発表を行った。昨年行ったICOに関して、監査法人との話し合いが長引いたと報じられている。
現時点では、ICOは新たなコインの「販売」に当たるとして発行体の「売り上げ」に計上することになりそうだ。税務的には、経費差引後の利益に対して3割程度の法人税が課せられることになる。だが、メタップスの例にもみられるとおり、細部については監査法人と個別に議論することになりそうだ。
また、ICOの法的な位置づけもまだ曖昧だ。基本的には仮想通貨の発行なのだが、投信のような「集団投資スキーム」だとする見方や、売り上げの前払いだとする見方もある。これらの点がもう少し明確にならないと多くの企業はICOを計画しにくいだろう。
それでも、非上場企業であっても、比較的簡易な手続きで、広い投資家層から資金を調達できるというICOのメリットは企業にとって魅力的だろう。このため、投資家が存在する限りICOは続くとみられる。
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