ビジネスパーソン総クリエーター時代の到来 ITの進化で変わる、ラーニングのかたち(上)

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キュレーション力の磨き方

もうひとつ、これからのIT社会で強みとなるコンピテンシーとなるが、キュレーション力だ。知識がフローする時代においては、いろんな人に簡単にアクセスできるから楽ができると思ったら大間違いである。顧客(消費者)もその知識にアクセスできるわけだから、知識そのものでは勝負できない(価値を生めない)ことになり、最後は、キュレーションの仕方とか、アレンジの仕方で価値を出して行くことが求められる。同じ素材、同じ情報を持っていても編集や見せる切り口が違うだけで価値が何倍も変わるのは、池上彰さんのニュースや、某アイドルグループを見ても納得できるのではないだろうか。

ただキュレーション力を高めていくのは一朝一夕にはいかない。これまでビジネスの世界で求められたスピード感やロジックは、ある程度、積み上げ式の訓練で対応できた。だがキュレーション力は、予定調和的なものではなく突発的なひらめきによるところが大きいし、こうすればひらめくという決まったルートがあるわけではない。

時には、一見、仕事とは関係なさそうな異質なアイデアを、「とりあえず取りに行く」「出てきたアイデアをとりあえずは寝かせて熟成させる」「何が起こるかわからないが実際に手を動かして何かを作ってみる」といったようなことが重要なステップだったりする。

デザイン思考の実践者たちはこれを日々繰り返してしているし、大手広告会社のコピーライターが会社の席におらず、業務時間中に思索という名の散歩に出るのもそのためだ。その取り組みの根底にあるのは、何か新しい、異質な知識を得ておけば、どこかのタイミングで何か価値あるものをクリエーションできるだろうという、「自分の感性に対するポジティブな信頼」である。

キュレーションの時代とは「ビジネスパーソン総クリエイター時代」とも言い換えることができるかもしれない。そうした価値観・仕事観の変容が、個人にも、組織の側にも、多かれ少なかれ迫られているということだ。

どうだろう、あなたはすでに、長く、深くすりこまれた「知識を手放すと自分の存在価値がなくなる」という思考回路の転換ができているだろうか? 知識を抱え込むのではなく、知識のフローを巻き起こせているだろうか? そこで価値ある情報が発信できるよう、知識と知識を組み合わせるキュレーション能力を磨けているだろうか?

一つひとつシフトしていくことで、自信を持って新しい時代を迎えるようにしていきたい。

※ 後編に続く

作佐部 孝哉 PwCコンサルティング合同会社 パートナー

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さくさべ たかや

PwCコンサルティング合同会社 パートナー。組織・人材戦略の専門家として、新興国における組織・人材戦略をまとめた連載『エマージング市場攻略法』(日経産業新聞)や、日経BP社主催のHRマネージメントフォーラムなどの大規模セミナーに登壇し、10年先を見据えた組織・人事戦略を提言。共著に『新興国進出のためのグローバル組織・人材マネジメント』(東洋経済新報社)がある。

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