「減塩」は、どうしてこんなにも難しいのか 自分だけでできることは限られている
確かにナトリウムは、塩化ナトリウムの分子を構成する塩素とともに必須ミネラルだ。人類の祖先は海洋生物だったから、今も体の組織は塩辛い海の中を泳いでいるわけだ。
腎臓は血液中のナトリウム濃度を生理学的に健康的と言える水準に維持するための精密なマシンだ。ナトリウムが多すぎると腎臓はそれを尿中に捨て、足りないときは尿から回収して血液に送り込む。
残念ながら、処理しなければならないナトリウムが多すぎる状態が慢性的に続くと、腎臓は消耗しきってしまう。すると血液中のナトリウム濃度は上昇し、それを薄めるために血液中に取り込まれる水分も増え、結果として血管内の圧力も、体内の組織を取り囲む余分な水分も増える(つまりむくむ)。
では減塩の是非を巡って議論が起きるのはなぜだろう。米非営利組織「公益科学センター(CSPI)」で栄養問題の責任者を務めるボニー・リーブマンに言わせれば、原因の一端は1日当たりのナトリウム摂取量を1500ミリグラム以下に減らすのは危険だなどと主張するいい加減な研究にある。
「減塩=美味しくない」の思い込み
「ごく少量のナトリウムしか摂取していないのはごく少数の人たちに過ぎず、そうした人のほとんどはそもそも病気を抱えていて、そのために食事の量も少なければナトリウム摂取量も少ないのだ」とリーブマンは解説する。「つまり偽の問題だ」
ところが一般的に信じられている説と相反する研究が発表されると、メディアは必要以上に注目しがちだ。「『犬が人に噛まれた』的な話はメディア受けするから、驚くような研究結果が見出しを飾ることになる」とリーブマンは言う。
2000〜2014年にかけて米国の17万2042世帯を対象にした調査では、市販の加工食品や飲料由来のナトリウムの摂取量は、1人1日当たり平均396ミリグラム減少した(それでも大半の世帯の摂取量は推奨される上限を上回っている)。
ゼネラル・ミルズのように、2015年末までに10のカテゴリーで食品やスナック菓子のナトリウム含有量を18〜35%も削減した企業はたいしたものだ。同社は何年も前、看板商品の朝食用シリアル「ウィーティーズ」の低ナトリウム仕様の製品を試験的に発売したが、売れ行きはぱっとしなかった。その後、同社はウィーティーズのナトリウム含有量を減らしていったが、売り上げは変わらなかった。