2018年、豪ドル投資にチャンスは到来するか 日本人に根強い人気を誇る通貨を検証する

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一方、豪ドル円に限らず、為替の短中期の方向性を考えるうえでは、各国の経済・物価・金融政策の動向が最大のポイントになる。実際、2000年から2008年までは、上記の購買力平価が下落する中で、実際の豪ドル円レートは上昇してきた。これは、資源ブームの追い風もあって豪州の経済が好調に推移し、RBAの段階的な利上げを受けて、投資マネーが豪ドルへと向かったためだ。

日本については、経済こそ堅調だが物価上昇率は目標である2%の半分にも満たず、今後も長らく2%から程遠い状況が続くだろう。したがって、日銀の金融政策は小幅な調整こそあれ、少なくとも今後2~3年のうちに出口に向かうとは考えにくく、現行の金融緩和策が長期にわたって継続される可能性が高い。そのため、豪州サイドの動向が今後の豪ドル円の行方を左右することになる。

2018年後半か2019年には再び豪ドル高へ

最近の豪州経済を見ると、底固さはあるものの、力強さに欠ける状況にある。IMF(国際通貨基金)によれば、2017年の実質成長率は2.2%が見込まれているが、2000年代の平均である3.1%をかなり下回っている。物価上昇率(トリム平均)も直近7~9月期で前年同期比1.8%と、RBAの目標下限である2%を下回り続けている。このことから、RBAは一年以上にわたって政策金利を過去最低の1.50%に据え置いており、今後もしばらく利上げを見通せる状況にはない。

ただし、2~3年先まで見据えれば、景気回復ペースの加速が見込まれる。資源価格はいまだ過去に比べれば低水準だが、世界経済の回復を受けて既に底打ちしている。今後も世界経済の回復は続くとみられ、資源価格下落による景気下押し圧力は緩和するだろう。

また、豪州経済の構造転換が進みつつある点もプラスに働く。豪州経済は従来資源依存型であったが、インバウンド消費や留学の受け入れといったサービス輸出が活発化している。豪州は成長ペースが速いアジアとの距離が近い英語圏という強みがあり、今後も伸びが期待できる。

豪州経済が次第に勢いを取り戻すことで、雇用・所得環境の改善を通じて物価も持ち直し、いずれRBAは日銀よりも先に利上げに踏み切る可能性が高い。したがって、しばらくは豪ドルの上値が重い展開が続くものの、2018年後半か2019年には再び円安豪ドル高に向かうと見ている。

既述のとおり、豪ドルは変動リスクが大きいうえ、長期的には購買力平価に伴う豪ドル安圧力に留意が必要だが、豪州経済回復に伴う利上げという豪ドル高圧力が勝り、豪ドル投資が報われる局面がいずれ到来しそうだ。

上野 剛志 ニッセイ基礎研究所 上席エコノミスト

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うえの つよし / Tsuyoshi Ueno

京都大学経済学部卒業後、1998年に日本生命保険相互会社入社。企業融資審査業務に携わる。その後、日本経済研究センター、米シンクタンクThe Conference Boardへの派遣を経て、2009年よりニッセイ基礎研究所へ。内外経済の動向を踏まえ、為替をはじめ、金利、金融政策、コモディティなどを幅広く分析している。岐阜県出身。

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