乗客が「駅ホーム下」で雨宿りする複雑な事情 日本がジャカルタに作った通勤新線の悲運

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ブカシ線がまさにそれに当てはまった。西ジャワ州からの補助金が限られていたので、電化されていないブカシ以東の普通列車の本数が従来、極端に少なかったのである。並行する高速道路はマイカー、バス、トラックで終日大渋滞している。かつて、普通列車は屋根まで鈴なりの乗客が乗っていた。それでもKAIは知らん顔。近年ではKAIが外からの目を気にして、屋根上乗車を禁止し、さらに座席定員制にあらためたため、チカラン界隈で、切符を確保できなかった乗客によるデモまで発生していた。

タンブン駅にやってきた列車。通勤手段として重要な路線だ。基本的に当駅で長距離列車の通過待ちを行う。ホームが非常に狭い(筆者撮影)

そういう意味では2008年にKAIから独立したKCJ(現KCI)が設立され、ジャカルタ都市圏向けに適正な予算付けが可能になり、独自に電車ダイヤを設定できるようになったのは、非常に意義のあることであり、KCIが残した功績はあまりにも大きい。

そして、それが今回チカランまで延長した。もちろん、用地不足によりチカラン駅が未完成なことに加え、ブカシ線は全線で長距離特急・急行列車と線路を共用しており、これ以上通勤電車の本数を増やすことができない状況ではある。日中でも朝ラッシュ時並みの混雑で電車がやってくるときには閉口させられるが、KCIも親会社の意向には逆らえず、ブカシ線内で長距離列車と通勤電車で平行ダイヤを組ませ、本数を増やすというのは、どうやら難しそうだ。インドネシアの手による複々線化、そしてマンガライ駅立体化が待ち望まれる。

本当に必要なのは「保安装置」

とはいえ、ジャカルタ首都圏の既存鉄道を活用した通勤路線網は、1980年代から思い描いていた形にはなった。以後、ここまで大規模なインフラ整備は予定されていない。今後はMRTなどの新線建設にシフトしてゆくことになるだろう。

今や、都心部中央線の朝の電車は約5分毎の運転になった。加えて、そこには長距離特急列車が割り込んでくる。さらに、複雑な運行形態の下、マンガライ駅・ジャティネガラ駅では平面交差の連続である。それを大きな遅れなく、人海戦術のみを頼りにさばいている点は称賛に値するが、「いつ大事故が起きてもおかしくない状況」と専門家は口をそろえる。にもかかわらず、保安装置の設置も一向に具体化しない。信号や保安装置こそ、資金的にも技術的にもODA案件として進めるべき事象であるが、大衆の目に触れない部分になると、インドネシアが極端に後ろ向きになる。だから誰の目にもわかる、高速鉄道という短絡的な話になってしまうのだ。

これは日本側にも同じことがいえるのではないか。日の丸を掲げるためのハコモノ整備偏重型のODAがいまだにまかり通っている。こんなものは鉄道インフラパッケージ輸出など呼ぶには程遠い。KCIの1日利用者数である約100万人の命と、誰のためかもわからない鉄道高速化のどちらが重要なのか。ジャカルタの通勤鉄道網は、今あるものの磨き上げに入らねばならない段階に突入した。わが国による支援も、人を通じた国際協力の原点に立ち返り、冷静に考えていただきたいところだ。

高木 聡 アジアン鉄道ライター

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たかぎ さとし / Satoshi Takagi

立教大学観光学部卒。JR線全線完乗後、活動の起点を東南アジアに移す。インドネシア在住。鉄道誌『鉄道ファン』での記事執筆、「ジャカルタの205系」「ジャカルタの東京地下鉄関連の車両」など。JABODETABEK COMMUTERS NEWS管理人。

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