鉄道「高速化競争」から欧州が離脱した理由 「世界最速」の中国とは異なる事情がある

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NTV社が今回発注した「イタロEVO」と呼ばれるETR675形はペンドリーノをベースにした車両だが、最高速度は時速250kmで振り子装置もない。「廉価バージョン」というとやや語弊があるが、つまり振り子装置が必要なほどの曲線区間もなく、最高速度で初代車両に多少劣っても、トータルの所要時間にさほど影響がないとNTV社が判断した、ということだ。

契約価格については、初代のETR575形は25編成で6億5000万ユーロ、1編成当たり2600万ユーロであるのに対し、2代目のETR675形は8編成で4億3000万ユーロ、1編成当たりでは5750万ユーロ。一見すると新型は契約価格が倍以上にハネ上がっているが、これは20年間のメンテナンス費用を含んだ契約となっているためだ。ETR575形の契約にはメンテナンス費用が含まれていない。

この数字だけではどちらがより経済的かは算出できないが、高速運転を続けていれば、各パーツの摩耗や耐久性の低下はより早く訪れる。ETR575形のメンテナンス費用がその都度発生すると仮定すると、十数年使い続けていけば莫大な金額としてのしかかってくる。

「高速化」から適切な速さへ

NTV社とアルストム社の共通認識として、現在のイタリア都市間路線網においては、最高速度を50km程度落としたところで、所要時間の差は10分以内で収まるという試算がある。実際、イタロが運行されている区間のうち、フィレンツェ―ベネチア間やミラノ―ベネチア間はほとんどが最高速度200km程度の在来線を走るし、高速新線の開業年が古いフィレンツェ―ローマ間など、もともとの路線設計が最高速度250kmの区間もある。

これらの区間を走る場合、ETR575形ではスペックを持て余すのは間違いない。新型車両を在来線が混在する区間などへ集中的に投入することで、所要時間を大幅にロスさせることなく、かつランニングコストも抑制することが可能となる。今回のイタロEVOの投入には、そんな意図が見え隠れしており、実際に同社は早くも11編成の追加発注を決定している。

高速列車に夜行列車があるほど、圧倒的に国土が広大な中国は高速鉄道を建設するのに最適な環境が整っており、それが世界最速の時速350km運転へと繋がっている。他方で、高速列車のパイオニアである日本や欧州各国は、国土そのものが中国よりだいぶ狭く、決して環境が整っているとはいえない。現在の欧州各国鉄道の潮流は、さらなる高速化ではなく、より適切な速度による運行へと変化していっているのだ。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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