子どもを極端に清潔な環境で育てていいのか 微生物との付き合いは健康に影響する
トリクロサンは60年ほど前から使われているが、最近の研究ではその副作用と環境有害性が指摘される。トリクロサンは、細菌を殺すばかりでなく、動物のホルモン調節機能を変化させることも明らかになっている。さらに耐性菌発生の一因になっている可能性もある。トリクロサンは、水生生物に対しては有害な化学薬品として分類されており、生物分解されにくいことも知られている。
ジョンソン・エンド・ジョンソンのような大手メーカーは、2015年までに自社の全製品でトリクロサンの使用をやめると宣言した(この本を書いている時点では、同社はまだトリクロサンの使用中止を確認していない)。トリクロサンは、ヨーロッパでは2010年から使用が禁止されている。カナダ医師会はトリクロサンなどを使った消費者向け抗菌製品の販売禁止を提案しており、アメリカ食品医薬品局も、抗菌せっけんの長期使用に関連するリスクは、その効果を上回る可能性があるとしている。
とはいえ、多くの地域では現在でも、トリクロサンを含むせっけんなどは人間が使用しても安全な製品として扱われていて、その使用を控えるかどうかは人々の判断に任されている。
赤ちゃんをほかの人に触らせるのは不安?
「他人に自分の赤ちゃんを抱いてもらったり、触らせたりしてもいいか?」という質問も受けることがある。
そうするかどうかは完全に個人の選択の問題であり、自分の赤ちゃんをほかの人に触らせるのを不安と感じるかどうかによる。とはいうものの、これまでの研究では、身体的接触も含めた社会的交流が、微生物コミュニティの多様性を保つための1つの方法であることが明らかになっている。
ある研究で生物学者たちは、アフリカで隣り合って暮らす2つのヒヒの群れから長期にわたり微生物サンプルを採集した。2つの群れは同じ種類のエサを食べていたが、ある重要な行動に違いがあった。
一方の群れは社会的グルーミングを行っていたが、もう一方の群れは行っていなかった。面白いことに、2つの群れのあいだではマイクロバイオータに差があった。さらに、群れの中で微生物を比較すると、互いにグルーミングしていた群れのほうが、していない群れよりも、群れのメンバー同士の微生物コミュニティが似通っていた。
この研究が示しているのは、わたしたちの体で育つ微生物の種類は食事だけで決まるのではなく、身体的接触のような社会的交流にも重要な役割があるということだ。したがって、他人との身体的接触を制限することは、赤ちゃんと周囲の人間との微生物の交換を制限することになる可能性が高いといえる。
それでも赤ちゃんが病気になるのが心配で、他人に自分の赤ちゃんを抱かせたり、触らせたりするのは気が進まないのなら、病気のリスクを大幅に減らす方法がある。