トランプ政権が抱える3つの不都合な真実 ロシア疑惑、バブル懸念、軍産複合体

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実際に、米国民間企業の株式時価総額は対GDP比で約130%の水準に達している。2008年のリーマンショック時を超え、GDP比150%だった2000年のITバブルに迫ろうとしている。現在のトランプ政権に、もしまたリーマンショック級の経済危機が訪れたらどうなるのか。

いかにも「イエスマンタイプ」のジェローム・パウエルFRB新議長が先頭に立って、経済危機を救ってくれるとも思えない。かといって、不動産会社のCEOだったトランプ大統領に、経済危機の対応能力があるとも思えない。簡単に、HIEERの解説をしておこう。

ハイイールド債市場……米国では低格付け、高金利の債券が人気で、今年に入って9月までの発行高は対前年比で2割増しとなっている。米国債との金利差がハイイールド債の魅力だが、近年徐々にその利回り差(クレジットスプレッド)が少さくなっており、それでも買い意欲が旺盛だ。このハイイールド債券を指数化したETFの下落が、11月第2週の世界株安の原因の1つといわれている。
IT株市場……いまや米国経済というよりも世界経済全体を牽引するフェイスブック、アップル、アマゾン、ネットフリックス、グーグル(アルファベット)といった米国を代表するIT5社(総称して「FAANG(ファング)」)の時価総額は、2兆6000億ドルにも達する。2兆6000億ドルといえば、英国の名目GDPに匹敵する規模になる。トランプ大統領は、米国経済を牽引するこれらIT企業のことはよく理解せずに、石炭産業や自動車産業にばかり肩入れをしている。この5社の一画が暴落しただけで、株価は現在の水準を維持できない。
ETF(上場投資信託)市場……日本市場でもそうだが、最近は個別銘柄よりも指数に連動するETFの売買が株式市場でメインになっている。米国のETF市場はいまや3兆ドルを超えており、指数に連動するパッシブ運用への偏りが問題視されつつある。
新興国市場……リーマンショックによって冷え込んだ世界経済を立て直すために、先進国が中心になって大規模な量的緩和を実施した。その影響で、現在の新興市場は先進国から流入してきた緩和マネーでバブル状態に陥っている。2009年以降の新興市場への資金流入はざっと4兆ドルに達する。
不動産市場……米国の不動産市場は、一部リーマンショック前を越えたともいわれる。不動産ローンなどを証券化する証券化商品の組成も再開しており、米国を舞台に再び「クレジットバブル」が再燃する可能性も否定はできない。

〈参考資料:株高・債券高・不動産高の落とし穴 五つのバブル 「HIEER(ヒア)」の恐怖(『週刊エコノミスト』2017年11月7日号)長谷川克之〉

戦争なしでは好景気を保てない?

そして第3のポイントが、戦争ビジネスを余儀なくされた米国経済の実態だ。今回のアジア歴訪でトランプ大統領は日本や韓国に武器を売り込むことに成功し、ご満悦の表情を見せた。ただ、それは米国の宿命と呼ばれる「世界最大の戦争屋=武器商人」であることを、新米大統領自らが前面に出て売り込み、その不都合な真実を露呈してしまったことも意味する。

そもそも米国は世界最大の武器商人であり、つねに世界のどこかで戦争を仕掛けて、砲弾や弾丸、ミサイルを“消費”し続けなければならないという宿命を負っている。軍需産業に支配され続けている米国政府の限界が、露呈されてしまったともいえる。

世界銀行(World Bank)によると、米国の武器輸出額は98億9400万ドル(約1兆1000億円、2016年、以下同)。第2位はロシアの64億3200万ドル、第3位ドイツ=28億1300万ドル、第4位フランス=22億2600万ドル、第5位=中国21億2300万ドルとなっている。

もっとも、2008年12月2日付のワシントンポスト紙に掲載された、米国の航空宇宙・軍需企業が加盟する「AIA(米航空宇宙産業協会)」の広告によると、米国の航空宇宙・軍需産業は年間輸出額970億ドル(約11兆円)に達し、200万人以上の雇用を創出しているそうだ。

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