西武S-TRAINは「観光列車」として使えるか 横浜―秩父2時間の旅、乗ってわかった問題点

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また、ドア付近の座席に関しては、ドア横に設置された透明なアクリル製の仕切り板との間隔が狭いために足元が窮屈で、しかも窓がないために車窓の景色が楽しめない。もし、長時間乗車するのに、予約した席がこの席に当たってしまったら、座席の変更は車内手続きでできるので、変更をおすすめする。

そして、2時間の移動ともなると、心配なのはトイレだ。トイレは、10両編成のうち、4号車の1カ所に設置されている。しかし、乗車率100%になった場合、およそ440席となるが、果たして1カ所のトイレだけで足りるのだろうか。さらに、車内販売や自動販売機もないので、飲み物・食べ物は乗車前に購入しておかなければならない。

40000系のトイレ。広く清潔だが1カ所しかない(撮影:尾形文繁)

以上、車両については難点を中心に書いてしまったが、同じく西武線沿線と元町・中華街を結ぶFライナーに使われている一般車両などと比較すれば、もちろん、優れている箇所もある。窓側席のみとなるがAC100Vコンセントが設置されていることや、車内で無料Wi-Fiが利用可能なことはありがたい。

次に、S-TRAINの運用面については、”実験段階”という印象を受けざるをえない。まず、平日と休日で大幅に異なる路線を走るにもかかわらず、同じS-TRAINという名称を用いるのは、イメージ戦略的にプラスにはならないのではないか。同じ車両を用いるにせよ、平日のライナー運用と、休日の観光列車運用には別々の名称を付与した方が、紛らわしくなく、イメージも定着しやすいように思う。また、休日に関しては、秩父をはじめとする埼玉方面に出かけるJR湘南新宿ラインユーザーを取り込むのであれば、1日2往復半の運行だけでは使い勝手が悪いし、朝の列車が横浜駅7時09分発では、時間設定が早すぎるのではないか。

さらに、都心から秩父方面に向かう座席指定列車という意味では、特急レッドアロー号が競合する。今の車両仕様のままで、横浜から秩父までを乗り通すのは、正直、快適とは言いがたい。レッドアロー号のほうが、格段に快適な秩父路の旅が楽しめる。

「祭の湯」は超オススメだ

最後に、今年4月に西武秩父駅の「西武秩父 仲見世」をリニューアルし、複合型温泉施設としてオープンした「祭の湯」がおすすめなので紹介したい。秩父には、今までも武甲温泉をはじめ、日帰りで使える温泉はあったが、祭の湯のすごさは、西武秩父駅の本当にすぐ隣に位置するにもかかわらず、内湯のほか、寝ころび湯や岩風呂などもある広めな露天風呂も楽しむことができ、「くつろぎ処」では、航空機のファーストクラスのシートを思わせるような、豪華なシートでゆったりできる。そのほか、祭の湯のプレミアムラウンジは、予約すれば宿泊も可能なので、秩父観光の新たなベースキャンプが誕生したといってもいいだろう。

森川 天喜 旅行・鉄道ジャーナリスト

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もりかわ あき / Aki Morikawa

現在、神奈川県観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員。旅行、鉄道、ホテル、都市開発など幅広いジャンルの取材記事を雑誌、オンライン問わず寄稿。メディア出演、連載多数。近著に『湘南モノレール50年の軌跡』(2023年5月 神奈川新聞社刊)。2023年10月~神奈川新聞ウェブ版にて「かながわ鉄道廃線紀行」連載開始

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