安倍首相のトランプ占いは「吉」か「凶」か ドナルド&シンゾー蜜月に「巻き込まれ不安」

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一方、日米貿易でも両首脳の立場は食い違った。巨額の対日貿易赤字を問題視する大統領は、6日朝の日米企業家との会合で「日米貿易は公平でない」と批判した。大統領は首脳会談でも「対日貿易赤字を減らしていかねばならない」と迫ったが、首相は麻生太郎副総理とペンス副大統領による日米経済対話を深化させるとしてなんとか体をかわした。

大統領が就任時に離脱を決断した環太平洋経済連携協定(TPP)の米国抜きでの締結問題や、TPPに代わる日米FTA(2国間自由貿易協定)についても議題に上った可能性が大きいが、両首脳は共同会見でまったく触れなかった。これは「世界に日米蜜月関係をアピールするためあえて言及を避けた」(官邸筋)のが真相とみられている。

そうした中、大統領は共同会見で「非常に重要なのは、日本が膨大な兵器を追加で買うことだ」と得意気に語った。大統領は、北朝鮮が日本上空を通過するICBM発射を繰り返していることについて「(自衛隊は)なんで撃ち落とさないのか」とつぶやいたとされる。日本の米国製防衛装備品の購入はその延長線上の要求でもある。首相も「努力する」姿勢を示したが、防衛省幹部は「予算上も、とても対応できない」と首を傾げる。

平和憲法を背景に安全保障では「米国頼り」の日本に、あえて防衛力強化を求める大統領は「武器商人」ともいえる。会談後、ツイッターに「(日本から)大量の軍関連やエネルギーの注文が来ている」と書き込んだ大統領は「友好の仮面を外せば、安全保障と武器輸出をディール(取引)するようなしたたかな商売人」(外務省幹部)の素顔も見せた格好だ。

「猛獣使い」が食い殺される不安も

もちろん、首脳会談の前に北朝鮮の拉致被害者や家族との面会に応じ、「解決への協力」を約束した大統領に、高齢の被害家族たちは「感謝と期待」に胸を詰まらせた。首相との個人的関係も含め、日米両首脳が強い絆で結ばれていることは否定しようがない「安倍外交の成果」(自民幹部)ではある。

しかし野党からは「すり寄りへつらう対米追従」(社民党)との批判も出た。自民党内でもポスト安倍を狙う石破茂元地方創生相も首相と大統領による"日米蜜月"について、「国民の支持あっての同盟だ。トランプ政権が多くの国民の支持が得られるかどうかについて、つねにウォッチしていく必要がある。必ずしも国民の全幅の信任を得ていない政権であるぞということはよく認識しながらやっていかないとならない」と警鐘を鳴らした。

大統領は7日午前、次の訪問国の韓国に向かった。同国では「反トランプ」の抗議デモも広がるが、日本では多くの国民が大統領訪日を素直に喜んだようにみえる。首相は、国際舞台でトランプ氏やプーチン・ロシア大統領らと親交を重ねて「猛獣使い」の異名もとるが、「深入りしすぎると、猛獣に食い殺される」(元外務省高官)との不安も付きまとう。首相周辺は「これで内閣支持率も上がり、株価もバブル崩壊後の高値を更新し続けるはず」と手放しの喜びようだが、今後の国会論戦も含め、今回の「ドナルド&シンゾー」蜜月外交の成果がなお問われ続けることは間違いなさそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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