トランプ大統領令は「オバマケア」を殺すか 中途半端な大統領令は改悪をもたらす

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これまでもトランプ政権は、大統領権限によってオバマケアの実施を難しくしようとしてきた。「そもそもオバマケアは問題がある制度であり、いずれは自滅する」というのがトランプ政権の主張である。大統領権限の活用には、自滅のプロセスを早めることで、議会での改廃議論を後押ししようという思惑があった。

ただし、それはあくまでも立法作業の援護射撃であり、オバマケアを根幹から揺るがすような措置ではなかった。オバマケアを利用した医療保険への加入を促進するための予算を絞ったり、オバマケアを紹介する情報をウェブサイトから削除したりと、どちらかといえば、嫌がらせのような措置が多かった。

2つの措置がもたらす影響

10月12日に発表された2つの措置は、オバマケアの運営を大きく混乱させる可能性がある。第1の措置は、オバマケアの枠外で、安価な医療保険の販売を容易にする大統領令である。オバマケアでは、補助金などを通じて医療保険の購入を支援すると同時に、補助金などの対象となるオバマケア枠内の医療保険については、提供すべき保険の内容などの点で保険会社を厳しく規制している。

今回の大統領令に基づけば、オバマケアの枠外に置いて、保険の内容は手薄でも、自己負担が少ない医療保険が購入しやすくなる可能性がある。保険を使うリスクが低い人ほど安価な保険に流出しやすく、オバマケアには多くの医療サービスを使わなければならない人が取り残される可能性が高い。その結果、オバマケア内で医療保険を運用するコストは高騰し、制度を維持するための財政負担が膨張するリスクがある。

もっとも、この大統領令は、直ちにオバマケアに影響が出るわけではない。実際の運用規則などは、これから担当官庁によって詰められていくことになる。

むしろ重要なのは、第2の措置である保険会社への補助金の支給停止である。オバマケアでは、低所得者を対象に保険料等の自己負担を軽減する措置が設けられている。そのための費用は、政府から保険会社への補助金として還付されてきた。オバマケア枠内で保険を購入している約1200万人のうち、補助金の対象は約700万人に達する。

トランプ政権は、この補助金の支給を停止する方針を発表している。立法時のミスにより、オバマケアを定めた法律には補助金の法的根拠が明記されていない。それを理由に、「違法な補助金は停止せざるをえない」というのが、トランプ政権の主張である。

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