トランプ大統領令は「オバマケア」を殺すか 中途半端な大統領令は改悪をもたらす

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補助金廃止の影響は大きい。補助金がなくなれば、その分だけ保険会社の負担は上昇する。その損失を取り戻すために、2018年1月からの保険料は、20%程度上昇する見込みである。見込まれていた補助金が受けられなくなることを嫌気して、オバマケア枠内での保険販売を取りやめる会社が出てくる可能性も指摘されている。最悪の場合には、オバマケア枠内で販売される医療保険が存在しない地域が出てくるかもしれない。

まったくよいところのない「改悪」だが、ここで明らかなのは、大統領権限による対応の限界である。立法措置による改廃であれば、曲がりなりにも新しい制度の運営が考慮される。しかし、大統領権限による対応では、法で定められた制度の根本的な改変はできない。手が出せるところから骨抜きにされていくだけであり、自滅の後には混乱が残るだけだ。

オバマケアを生まれ変わらせるには

大統領令による「骨抜き」に意味があるとすれば、改悪を避けるために、立法を通じたオバマケア改廃への機運が高まる場合である。制度改変の王道は、やはり立法措置である。

大統領令による対応のもう1つの限界は、大統領が変わってしまえば、簡単に覆されてしまう点にある。そのことは、オバマケアの補助金をめぐる騒動や、トランプ政権の誕生によってDACAの存続が危ぶまれている点からも明らかだろう。オバマ大統領の「ペン」による筆跡は、トランプ大統領の「ペン」によって上書きされようとしている。

オバマケアを頑健な制度に生まれ変わらせるためには、立法作業が超党派の取り組みになることが望ましい。片方の政党だけが支持した制度改革は、選挙の争点になりやすく、政権や議会多数党の交代への抵抗力が弱い。選挙では反対勢力も後継案まで考えていない場合があり、いざ政権が交代した場合に混乱を招きがちになる。オバマケアはその好例である。

超党派の取り組みが頑健性のカギとなるのは、トランプ政権の重要課題である税制改革も同様である。共和党を軸とした検討が基本線とされているが、富裕層減税の圧縮をちらつかせるなど、トランプ政権は一部の民主党議員からの支持を狙う色気も見せている。純粋な共和党路線で行くのか、それとも民主党と手を組む路線も排除しないのか。税制改革に限らず、トランプ政権は両にらみだ。

現在議会では、オバマケアの補助金存続に向けた超党派の協議が行われている。一時は民主党との協調路線をちらつかせたトランプ大統領が、どのような手綱さばきをみせるのか。オバマケアでの一手が、今後の試金石となる。

安井 明彦 みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部長

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やすい あきひこ / Akihiko Yasui

1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、現職。政策・政治を中心に、一貫してアメリカを担当。著書に『アメリカ 選択肢なき選択』(日本経済新聞出版社)などがある。

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