「鉄道ミステリー本」の編集者はつらいよ 取材やトリック構築で大忙し、校閲も大活躍
――作家に鉄道ミステリーを書いてもらいたい場合、編集者はどの程度まで作家さんと打ち合わせするのでしょう。たとえば「北陸新幹線を題材に」とか具体的に指定するのですか?
都丸:倉阪先生の『鉄道探偵団』は完全に先生にお任せでした。できあがった原稿を読ませていただいて、感想を言って修正していただきました。
岡本:葵先生の『東海道新幹線殺人事件』はトリックのアイデアが先にあり、最初から東海道新幹線と決まっていました。トリックを成立させるためにはどうしたらいいのか、いろいろな可能性を一緒に時刻表を見ながら、話し合いました。豊田先生の『鉄路の牢獄』も先にテーマやトリック、路線の提示があり、どう盛り上げていくのがよいのか細部を詰めていきました。
――作家は執筆前にロケをしているのですか?
都丸:倉阪先生は鉄道がすごくお好きなので、ご自身が実際に乗りに行って体験したことをベースに書かれています。
岡本:逆に葵先生はほとんど取材をされていません。鉄道にそれほど詳しくない人ですが、逆にその視点がすごく面白い。鉄道好きの私ですが、葵先生のアイデアにハッとさせられることも多かったです。豊田先生は現地取材派でいらっしゃいます。
新旧鉄道ミステリーの代表作とは?
――普通の人には鉄道ミステリーというと西村京太郎さんが思い浮かびますが、西村さんが草分けなのですか。
都丸:本格ミステリーの巨匠と呼ばれる鮎川哲也先生が、鉄道ミステリーをたくさん書かれていました。難攻不落のアリバイをどうやって崩していくかという「アリバイ崩し」ものに名作が多いですね。時刻表のトリックとか非常に緻密に作られています。西村先生はその後です。十津川警部も必ずしも鉄道ばかりではなく、トラベルミステリーの第1作こそ『寝台特急殺人事件』でしたが、2作目は『夜間飛行殺人事件』という航空もの。でも、「鉄道もののほうが売れる」ということで、3作目から鉄道ミステリー路線になりました。
――日本における鉄道ミステリーの代表作というと?
都丸:たくさんありすぎて難しいですね。鮎川先生ですと『憎悪の化石』かなあ。鉄道ダイヤを使ったアリバイ崩しの古典。「その手があったか」と驚かされます。近年のものですと有栖川有栖先生の『マレー鉄道の謎』。有栖川先生も鉄道が大好きで、列車という密室を利用したトリックですね。この2つが新旧鉄道ミステリーの代表作といえるかもしれません。でも、鉄道が好きな作家さんだけが鉄道ミステリーを書いているわけではありませんよ。
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