「鉄道ミステリー本」の編集者はつらいよ 取材やトリック構築で大忙し、校閲も大活躍

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――作家自身が鉄道好きかどうかと、ミステリーの面白さは関係ない?

都丸:ミステリーのトリックの題材として、鉄道は魅力的です。移動していて、しかも密閉空間である。たとえば高木彬光先生の『人形はなぜ殺される』という作品では、まだ新幹線が通っていない時代ですが、東海道線を走る特急が人形をはねる。「えっ、なんだろう」と思うと、今度は次の特急が人をひく。この不可解な状況に、とんでもない大トリックが仕掛けられています。高木先生は鉄道ファンではありませんが、鉄道を使ったこの大トリックは「すごい!」の一言です。森村誠一先生の『新幹線殺人事件』も傑作です。夏樹静子先生や辻真先先生もすばらしい鉄道ミステリーを書かれています。逆に海外では鉄道ミステリーはあまりないと言われています。海外では鉄道のダイヤが日本ほど正確ではないので、ダイヤを使ったトリックを作りづらい。その代わりアガサ・クリスティのような観光要素を入れたミステリーが多いのかもしれません。

――今回、鉄道ミステリーの新刊を4冊同時に発売する理由は?

都丸:もともとは、倉阪先生と「鉄道探偵団」の話をしていたときに、鉄道ファンの知恵を集めて謎を解くというアイデアが面白いと思ったのですが、その作品だけ出してもあまり目立たない。ちょうど、西村先生の作品が10月に出るので、さらに葵先生や豊田先生の作品も合わせて、10月に鉄道ミステリーフェアをやろうということになりました。4冊同時に出すことで「講談社が鉄道ミステリーに力を入れている」とわかってもらえると思います。

「品川新駅」が早くも小説の題材に

――最後に4つの作品の読みどころを教えてください。

都丸:『十津川警部 山手線の恋人』は、東京オリンピックに合わせて山手線に新駅ができるので、今回はそれが題材です。新駅はまだ工事中ですが、そこを巡って事件が起きる。多くの人に愛されている「十津川警部シリーズ」ならではの、安定のおすすめ作品です。

講談社ノベルスから鉄道ミステリ―が4冊同時発売(画像をクリックすると講談社のホームページにジャンプします)

岡本:『鉄路の牢獄 警視庁鉄道捜査班』の作者である豊田先生はもともと人気ゲーム『電車でGO!』の宣伝プロデューサーをされていたこともあり、人の心をくすぐるのがうまい。複雑な鉄道網を駆使し事件を起こすテロリストをどう止めるのか。グッと引き込まれる物語です。

都丸:倉阪先生の『鉄道探偵団 まぼろしの踊り子号』は、乗り鉄、撮り鉄、ラン鉄といった鉄道ファンが集う喫茶店を舞台にして謎を解いていくという、いちばんファン濃度が強い作品です。5つの作品で構成される短編集で、読後感はとても心地いいです。

岡本:葵先生の『東海道新幹線殺人事件』の主人公は十津川警部や浅見光彦の系譜を継ぐ名探偵になれるようなキャラクターです。トリックだけでなく旅情やグルメ、ロマンスもあって、鉄道ミステリーを初めて読む人でも愛読者でも面白く一気に読めると思います。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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