昨年末、派遣会社に近隣の特養老人ホームを紹介してもらった。
「今度は男性介護職員のパワハラがすごくて、精神的におかしくなるほどやられました。立場的には下の中年男性ですが、まわりに誰もいなくなると、とにかく細かいことに口を出してきて怒鳴ったりする。現場リーダーとか上の人が来ると、なにも言わなくなる。いなくなると、怒鳴る」
先に入職した中年男性のイジメや横暴は、介護現場のパワハラの典型的なケースだ。数カ月早く入職したという理由で威張り散らす。介護職の離職率の高さは、社会問題になっている。最も多い離職理由は毎年「人間関係」で、イジメに近いパワハラに耐えに耐えたが、結局それが終わることはなかった。深刻な人手不足の中、施設側も問題ある介護職を辞めさせることはできないのだ。
「特養では精神的にもおかしくなったけど、さらにカラダも壊してしまいました。機能が低下された利用者さんが何人もいて、パーキンソン病の方の介助で腰を痛めた。坐骨神経痛って診断されて、腰から膝に痛みが走る。歩けなくなったり、起き上がれなくなったりするまで悪化して辞めました。それが2カ月前です。介護で働いて何もいいことなかった。地獄みたいな世界と思いました」
息子がおカネがないことを察する
「息子が私の不安とか、おカネがまったくないとか、そういうことを察するんです。それは、本当にツライです……」
諦め切った表情のまま、悔しそうにつぶやく。
「息子は食べることが好きな子で、おカネがなくて、いつもどおりに買い物ができないのがわかる。おコメが買えなかったりすると、パニック起こして、繰り返し『おコメ、おコメ』って奇声をあげたり、何度も叫んだり。最近は、そんな状態です」
本当にギリギリの生活だが、持ち家があるので福祉は頼れない。それに車がないと生活できないので、なんとか無職から抜けだしてこのままの生活を維持するしかない。
15時をまわった。もうすぐ、息子がデイサービスから帰る時間だ。佐藤さんは大きくため息をついて、立ち上がった。絶望感がただよう無表情のままあいさつをされて、彼女は自宅のほうへと歩いていった。後ろ姿に、何の希望も見えなかった。
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