南海電鉄「なかもず素通り」問題に意外な背景 通勤定期「最安ルート」支給で悲喜こもごもも

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南海が力を入れているのは泉北直通線の速達性と利便性の向上だ。和泉中央からなんばに行くのであれば、泉北ライナーなら最速29分、区間急行でも30分台だが、中百舌鳥で御堂筋線に乗り換えると50分近くかかる。同区間の運賃も泉北・南海が550円であるのに対し、泉北・地下鉄は640円。速達性と利便性、どちらも南海に軍配が上がる。

大阪市営地下鉄御堂筋線のなかもず駅。南海電鉄と泉北高速鉄道が共同で使う中百舌鳥駅との乗り換えができる。日中でも利用者は多い(記者撮影)

にもかかわらず、泉北線定期券利用者に占める南海高野線と御堂筋線の利用者の割合はおよそ4対1。御堂筋線にも一定の利用者がいるのはなぜだろうか。すぐに思いつく理由は、御堂筋線のなかもずは始発駅なので座れる、本町、梅田などに直通している、天王寺のような高野線が止まらない駅がある、といったものだろう。しかし、より重要な理由があった。それは通勤定期券の価格である。

たとえば、和泉中央―なんば間の1カ月および6カ月の定期の価格を比較してみると、泉北・高野線は1カ月が2万5600円、6カ月が13万8250円。泉北・御堂筋線は1カ月が2万4100円、6カ月が13万0150円。普通運賃とは逆に、泉北・御堂筋線のほうが1カ月定期で1500円、6カ月定期で8100円も安いのだ。

通勤定期は最安ルートで支給

なぜこのような逆転現象が生じるのか。その理由は、南海が泉北高速鉄道を買収した際、普通運賃については乗り継ぎ割引の幅を拡大して実質的な値下げを行ったが、通勤定期については据え置きとしたためだ。通学定期については利用者の負担を減らすため、南海と堺市の共同施策で普通運賃並みに引き下げたが、通勤定期については「実質的な費用負担者は利用者ではなく企業と考えられる」(南海)ので、値下げは行われなかった。

そこへ企業の通勤交通費の支給ルールが追い打ちをかける。通勤定期は「合理的な経路」に基づき支給されるというのが一般的だ。社員の要望どおり支給する企業もあるだろうが、最も安い経路に基づき支給すると規定している企業は少なくない。その場合、和泉中央―なんば間の定期券代は、たとえ高野線ルートのほうが20分早くても、御堂筋線ルートで支給されることになる。もし高野線で通勤したいなら、その差額負担は自腹だ。

和泉中央から梅田に向かう場合も同様だ。泉北線から南海なんば駅に直行し、そこで御堂筋線に乗り換えるほうが、中百舌鳥から御堂筋線に乗って梅田に向かうよりも所要時間は10分近く短い。しかし、通勤定期券の最安ルートは中百舌鳥から御堂筋線利用ということになる。

泉北ライナーの車両。座って通勤できるため大人気だ(写真:ゴスペル/PIXTA)

かくのごとく、南海高野線利用のほうが便利とわかっていても、中百舌鳥で御堂筋線への乗り換えを余儀なくされる人が少なからずいる。そのような人にとって、中百舌鳥を素通りする列車はさぞうらめしいに違いない。通勤客を乗せて疾走する泉北ライナーは、彼らの目にはどのように映っているのだろうか。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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