奇想天外「国鉄が現在も続く」小説の誕生秘話

「電車でGO!」の仕掛け人が小説家に転身

表紙の魅力は不可避である。絵の力なしにライトノベルは売れない。これが2人で出した結論だ。そこでライトノベルの表紙を描いているイラストレーターを探したが、美少女を描ける人は多くいても、電車が描ける人が見つからない。

そんなある日、奥村が「すばらしい」と絶賛したのが、バーニア600というイラストレーターのイラストだ。そのサンプルイラストを見た瞬間、「強烈に訴えくるものがあった」という。豊田は、早速バーニア600に会いに行った。とある湘南の小さな喫茶店でバーニア600と豊田が延々2時間話し込んだのは、仕事の話でもなく、お願いしたいイラストの話でもなく、ただただ国鉄の話であったという。「国鉄が続いていたら車両って鋼鉄製ですかね?」「夕方の東京駅からは、たくさんの寝台列車が出発していくんですよね」。

2人で話をすることにより、世界観がさらに作り込まれた。もちろん最後にバーニア600が放った言葉は「表紙のイラストを描きます」の熱い一言だった。

電車も描ける、女の子もかわいい、制服も魅力的、そんなバーニア600が出してきた表紙の案を見て、2人は大きくうなずいた。「これは店頭で目立つ!」。

鉄道ファンをうならせる小さな仕掛け

当時のライトノベルの表紙はかわいい女の子を目立たせることに注力するのがセオリーだった。ゆえに白い背景にかわいい女の子が立っていて、カラフルなタイトルが真ん中に書かれているという、情報量を絞ったものがほとんどである。その中で國鉄の制服を着た色っぽくもかわいい女の子、電車、銃、駅舎、信号、架線……。圧倒的な情報量を詰め込んだバーニア600の絵が目立たないわけがない。鉄道が好きな人にはもちろんのこと、店頭で5冊目のライトノベルを探しているお客さんにも「面白そう」と手に取ってもらえるように、「これでもか」と楽しい要素を詰め込んだ。

表紙で注目してほしいのは車両につけられた「EF 68 501」というプレートだ。実は国鉄の電気機関車にはEF67までで、EF68はない。しかし、今なお国鉄が現存したら、という仮想世界の國鉄ではEF68が走っているのだ。「電車好きだったら、表紙を見ただけでニヤリとする仕掛けもしてあるんです」と豊田と奥村はうれしそうに言う。

ゲームや子供向けの小説において、中高年層、小学生層の電車ファンは実感していた豊田だったが、ライトノベルに親しむ中・高校生の心にも鉄道エンターテインメントを受け入れてくれる素養があったこともうれしい発見であった。

国鉄という郷愁を感じせる素材と若者向けのライトノベル、そのふたつが結び付いたときの反応が鉄道エンターテインメントの新しい道を示してくれた。

きっとこれからも豊田は鉄道エンターテインメントという世界で、新しい融合を探っていくのであろう。(敬称略)

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