往復6時間も!米国で増える「超長時間通勤」 サンフランシスコから郊外へ移り住む人たち

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列車内では寝ている人が多い。中にはパソコンをのぞいている人も(写真:Andrew Burton/The New York Times)

唯一誰もしないのは、話すことだ。列車を待っているときでさえ、会話はほとんど聞かれない。

そんな車内の雰囲気も、ジェームズの降車駅プリザントンに近づくと変わってくる。太陽が昇り始め、降車客の多くは、駅の向かい側に停車しているバスに乗り込む。

行き先は、ベイエリア高速鉄道(BART)の駅だ。バスの運転手がエンジンをかけたまま、遅れてくる人たちを待っていると、すでにバスに乗り込んだある女性が「早く出発してくれない?」と要求した。「次の(BARTの)列車に遅れちゃう」。

「通勤バスや列車では、びっくりするほど多くの大人が、子どもみたいに振る舞うの」と、ジェームズはため息をついた。

テクノロジーブームの副作用

ジェームズが超早朝出勤を始めたのは3年ほど前のこと。かつては職場からサンフランシスコ湾を渡ったところにある、アラメダという街に住んでいた。通勤距離は約25キロメートルだ。ところがある日、不動産開発会社が彼女の住んでいたアパートを建物ごと買い上げ、住民は全員出ていかなければならなくなった。

そこでジェームズが引っ越したのが、サンホアキン郡ストックトンだ。ここなら1000ドルの家賃で、3ベッドルームの一軒家を借りられる。アラメダでは、家賃1600ドルで1ベッドルームのアパート住まいだった。ジェームズは家で仕事をする日があるが、今はちゃんとしたデスクにコンピュータを置いた仕事部屋がある。アラメダでは、部屋の片隅に「仕事コーナー」があるだけだった。

列車を降りてからは、今度はバスに乗り込むジェームズ氏(写真:Andrew Burton/The New York Times)

その代償が長い通勤時間だ。

それはベイエリアのテクノロジーブームの「副作用」といっていい。近年のサンフランシスコ近郊は、グーグルなどの大手からスタートアップまで、テクノロジー系企業のオフィス(と従業員)が集中して不動産価格が急上昇。住宅価格は中間層が手の届くレベルを大幅に超えた。

このため都心部から内陸部に移り住む人が相次いだ。大手不動産サイトのジロー(Zillow)によると、ストックトンの住宅価格の中央値は30万ドル以下。ベイエリアに近づくほどその数値は上昇し、サンフランシスコ近郊では100万ドルを超える。

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