グレン・グールドが再び注目されている理由 ファン待望のアルバムがついに登場

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マスターテープをイメージさせるCDデザインなども相まってファン心理をくすぐる要素満載のこのセットに対する好奇心は、ジャズの世界におけるマイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』やビル・エヴァンスの『ワルツ・フォー・デヴィー』のすべての録音テイクを聴いてみたいと願うファン心理とまったく同じだ。ところがクラシックの世界においては、これまでこのような試みが行われることがまったくなかった。

というよりも、作曲家が残した楽譜を演奏する「再現芸術」の粋を極めるのがクラシックの醍醐味であるがゆえに、アドリブを旨とするジャズのようにテイクの違いにそこまでの興味が持たれなかったと言うべきかもしれない。その意味においてグレン・グールドの存在は極めて異色だ。

グレン・グールドとはいったいどういう存在なのだろう。そしてその彼が手掛けた『ゴールドベルク変奏曲』とはいったいどんな曲なのだろう。

ゴールドベルク変奏曲をデビューアルバムに

1932年9月25日にカナダのトロントに生まれたグールドは、幼い頃からピアノ演奏における特別な才能を発揮し、将来を嘱望されるピアニストとしてカナダでは有名な存在だった。その彼が世界的に注目されるきっかけとなったのが、1956年1月に発売されたデビューアルバム『ゴールドベルク変奏曲』だ。

その才能を見込まれて名門コロンビアとの専属契約を果たした当時23歳のグールドは、デビュー作にヨハン・セバスティアン・バッハ(1685-1750)の『ゴールドベルク変奏曲』録音を主張。当時は人気曲ではなかった同曲でのデビューに難色を示したレコード会社の重役たちを説得して行われた録音の記録こそが、今回発売になった『コンプレート・レコーディング・セッションズ1955』そのものだ。

いやはやこの貴重な録音がよくぞ無事に保存されていたものだ。正味4日間の録音を終えて編集&発売されたアルバムはベストセラーを記録し、クラシック史上最大の話題盤として知られる存在となったのだ。そしてこれがまさに今に至るグレン・グールド伝説の始まりだ。

一躍クラシック界のスターとなったグールドだったが、人気絶頂の1964年4月10日、ロサンゼルスでのリサイタルを最後に32歳の若さでコンサート活動から引退。「コンサートは死んだ」という衝撃的な言葉を残してステージを去っている。以後はレコード録音のほか、テレビやラジオへの出演のみに活動の場を限定し、1982年の死の前年に再び『ゴールドベルク変奏曲』の録音を手掛けたことが、グールドと『ゴールドベルク変奏曲』にまつわる伝説に拍車をかけたことは言うまでもない。

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