省エネを超える「無エネ」ビルは普及するのか 大林組や大成建設が進める次世代ビルの全貌

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特に建設費が賃料に跳ね返る商業ビルの間では、ZEB化の動きはない。準大手ゼネコンの戸田建設も、研究中のZEB技術を建設中の本社ビルへの適用を予定しているが、「低層階に入居するテナントの(賃料上昇に対する)理解を得るのが難しい」(会社側)と完全なZEB化は視野に入れていない。

コストを乗り越えてZEBを普及させるためには、省エネに価値を見いだしてもらうことが重要だ。今冬に建て替える新庁舎を「Nearly ZEB」にするという神奈川県開成町は、「町長がエネルギー問題に関心があり、町としてもエネルギーの地産地消を目指したい」(同町財務課)という。

神奈川県開成町はZEB庁舎

2016年4月から始まった認証ラベル「BELS」。国の基準と比べてどの程度省エネを達成したかを5ツ星で「見える化」した(画像:住宅性能評価・表示協会)

国も省エネ基準に適合した建築物については、外郭団体である住宅性能評価・表示協会が省エネ性能を示す認定マーク(BELS)を発行する。費用や立地だけでなく、環境という観点も建物の評価軸に含めたいという意図がある。

そもそもZEBで達成する無エネといえども、24時間365日にわたってエネルギー収支がプラス、というわけではない。

大林組と大成建設の両施設は、日射の多い春や夏にエネルギー収支のプラスを積み増し、日射が弱く暖房など電気代がかさみがちな冬場に取り崩すことで、通年での収支ゼロ化を図っている。

多くエネルギーを生み出した時は周辺施設や蓄電池に移し、不足した時は電力会社からの供給を受けているのだ。

そのため、ビル1棟だけでエネルギー循環が完結することはなく、「周辺施設と電力を融通しあうことが重要」(大林組の小野島氏)。ビル単体ではなく、地域一体で省エネを考える必要がありそうだ。

日本エネルギー経済研究所省エネルギーグループの土井菜保子マネージャーは、「ZEBが本格的に普及するまでは、補助金メニューの拡充や省エネ技術導入への低利融資など、政策的な後押しが必要。イタリアで行われている、省エネ枠を市場で売買するクレジット制度も参考になる」と指摘する。

夢のような「無エネビル」が、日本の街に広がる日は来るのか。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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