統計サービス会社Statistaによると、昨年のAPDによる歳入総額は年間31億5000万ポンド(約4570億円)に達しており、仮に日本政府が訪日客と日本人出国者から1人当たり1000円を徴収したときの総額は、昨年の実績をもとにすると410億円前後なので、英国はその10倍以上を出国者から集めていることになる。
いわば「お金持ちからはたくさん取ろう」という英国のAPD。アジアからの富裕層が意外と多いとされる日本でも、このアイデアを導入するといいかもしれない。
では、こうして旅行客から得た税収はどのように使えばいいのか。報道によると、観光庁は出国税の構想を打ち出すに当たり、「訪日客が東京や京都など主要都市に集中する傾向があることから、地方への誘客が課題」としたうえで、「政府は地方に訪日客増加に伴う経済効果を波及させたいと考えており、その一環としてプロモーション強化を図る」としている。
必要なのは人気スポットのインフラ整備だ
しかし、「いま起こっている問題点はどこにあるのか」を考えると、訪日客を全国津々浦々まで満遍なく行き渡らせるよりも、観光客が激増している地域の公共交通機関の輸送力の強化、外国人向け案内に当たる人員の増強に充てるほうが先ではないだろうか。また、訪日客を多く受け入れている自治体ではゴミ処理の人員確保も頭の痛い問題だと思われる。
ちなみに、各国における出国税等の財源の行き先だが、多くは「観光振興に役立てる」としている。理想的には、政府や各自治体の観光局など関連部署への予算として割り当てたうえで、PRプロモーションのほか、観光スポットや公共交通機関との連携による観光客により便利な街づくり、住民への理解増進のための活動を行うといったところだ。
気になる「高額空港税」を徴収する英国だが、これら旅行客からの税収はなんと「一般歳入」として組み込まれ、必ずしも観光振興などの対策には直結した財源とはなっていない。とはいえ、各自治体や交通機関等の連携もあり、辺境にある観光地へのバス便が確保されており、しっかりと住民の足としても使われているほか、過疎地でのイベントの際には村民らの負担を抑えるため、警察や消防等を含んだ各機関が催しの規模によってバランスよく協力するといったことが行われている。つまり「財源を使うべきところではしっかり使って、混乱を最小限に抑える」という努力がなされていることを垣間見える。
「想定を超える訪日客の増加に人もカネも追いついていない。さしたる解決案も決まっていない」といった状況の中、ただ漫然と出国税を新たに課税するだけでは、単に政府の歳入が増えるだけにとどまる。過疎化が進むエリアへの支援は必要と考えるものの、インバウンド拡大政策が推し進められた結果、生活環境の著しい悪化など「訪日客の増加で困っている地域」が国内のあちこちに生じているのは大きな問題だ。
新税として出国税導入の動きが活発化したら、その財源をどのように活かすと言うのだろうか。議論を深めていく必要があるだろう。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら