空飛ぶクルマ「ホンダジェット」世界一の裏側 快挙を支えた「技術屋の王国」の秘密

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元本田技術研究所社長の山本芳春氏は、次のように回想した。

「F1も、新しい事業もどんどんやめていた。そうやって何もかもやめていって、飛行機開発までやめたら、ホンダは単なる自動車メーカーになり下がるじゃないですか」

山本は“やめる決断”が通れば、会社を去る覚悟をしていた。

ホンダの不思議力はどこから生まれるのか

確かに、製造業にとっては、コスト削減や効率化は至上命題だ。しかし一方で、小さな芽を生かすための回り道や非効率、トライ&エラーを許容する度量を持たなくては、変化の時代を生き残っていくことはできない。夢のない企業に堕落する。

ホンダエアクラフトカンパニーのホンダジェット生産ライン(撮影:片山 修)

「クリエイションは、個の発想から生まれます。重要なのは、個の発想を生かすこと。クリエイションの小さな芽は、カネとか権力をかざしたとたんに枯れてしまう。研究所は、この小さな芽を生かすことをメインに置かなければいけないんです」

そう語るのは、川本氏である。

本田技術研究所は、強烈な「個」を有する“技術屋”の集団だ。平均的、標準的技術者は、研究所では評価されない。「個」の自立度合または独創度合が図抜けた技術者こそが、奇人・変人・怪人として尊敬され、面白がられる。

そこに、ホンダの不思議な企業文化の基盤を見ることができる。つまり、それはホンダの「不思議力」を生む源泉である。研究所は、“技術屋”が研究開発に没頭できる環境が保障されているのだ。まさしく「技術屋の王国」だ。

AI(人工知能)、IoT、第4次産業革命など、企業をとりまく事業環境が激変する中で、ホンダジェットを生み出した「技術屋の王国」、そしてホンダが秘める「不思議力」は、極めて示唆に富んでいる。

片山 修 経済ジャーナリスト

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かたやま おさむ / Osamu Katayama

愛知県名古屋市生まれ。経済、経営など幅広いテーマを手掛けるジャーナリスト。鋭い着眼点と柔軟な発想が持ち味。長年の取材経験に裏打ちされた企業論、組織論、人材論には定評がある。

『豊田章男』『技術屋の王国――ホンダの不思議力』『山崎正和の遺言』(すべて東洋経済新報社)、『時代は踊った――オンリー・イエスタディ ’80s』(文藝春秋)、『ソニーの法則』『トヨタの方式』(ともに小学館文庫)、『本田宗一郎と「昭和の男」たち』(文春新書)、『なぜザ・プレミアム・モルツはこんなに売れるのか?』(小学館)、『パナソニック、「イノベーション量産」企業に進化する!』(PHP研究所)など、著書は60冊を超える。

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