もっとも、多くの軍事関係者は、北朝鮮は最終的に、ICBMと核弾頭の小型化を成功させると考えていたため、DIAによる結論は驚きではあるものの、大きな影響を与える革新的なことではないと考えている。つまり、これによって朝鮮半島の軍事体制が根本から変わることはないということだ。
ところが、1月に自分の監視下で北朝鮮がICBMの開発を進めることは許されないと発言し、結局恥をかくことになったトランプ大統領にとって、DIAの結論は耐えられるものではなかった。そして、ここからトランプ大統領と金正恩による舌戦が始まり、トランプ大統領は8月8日、北朝鮮に「炎と恐怖をお見舞いする」と発言したのである。
予防攻撃に備えた行動はしていない
トランプ大統領は、北朝鮮からの脅迫は、その中身がどんなに空虚であったとしても、これが朝鮮半島でのより深刻な紛争を招くとしても、先制攻撃を命令するのに十分であると考えているようだ。これは、核戦略の語法においては、北朝鮮が核兵器を使用するという明らかな意図を示す前であっても、北朝鮮の核兵器使用能力を排除するために設計された予防攻撃となる。米国の指導者が、民間人であろうと、軍人であろうと、北朝鮮に対して予防攻撃を行うと脅迫したことは一度もない。
国防総省、国務省、そして多くの非政府専門家は、外交と戦争抑止が米国の政策の中心としてとどまると強調し、完全なる被害対策に入った。トランプ大統領をあからさまに否定することがないように注意しながら、ティラーソン国務長官とジェームズ・マティス国防長官の両者は、統合参謀本部(JCS)の長官であるジョセフ・ダンフォード将軍とともに、予防的な最初の攻撃をにおわせる言い回しを避けながら、米軍による行動は北朝鮮の攻撃の報復として行われるものだと明らかにした。
しかし、北朝鮮は検知することが困難な移動式発射台を有していると見られるほか、大規模な報復攻撃を行うと考えられることから、米国による予防攻撃自体はまず無理のある話だ。そもそも米国は、たとえば、ソウルに住む約20万人の米国人の避難など、予防攻撃に備えた行動を1つとしてとっていないのである。
どの専門家に聞いても、朝鮮半島で戦争が勃発すれば、ソウルやその近辺に住む何百万もの人が命を失うことは避けられない。こうした中、先日、大統領首席戦略官を解任されたスティーブン・バノン氏でさえ、北朝鮮に対する先制攻撃など問題外だと警告していた。
トランプ大統領を抑えるという努力が行われたにもかかわらず、2人の核戦争専門家、『ディプロマット』誌のアンキット・パンダ氏と、マサチューセッツ工科大学(MIT)のヴァイピン・ナラン教授は、同大統領による一連の発言は米国に大きな被害を与えたと主張する。
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