バノン解任でトランプ政権の「敵になる人々」 忘れられた人々への対応をどうするか
前述のバノン氏退任後にフェニックスで行われた演説でトランプ大統領は、改めてNAFTA脱退の可能性を口にしている。バノン氏の退任により、過激な政策が選ばれる可能性はさらに低下していると思われるが、NAFTA再交渉の行方は、トランプ大統領発の混乱とオーソドックスな共和党路線の併存が続くかどうかを見極める論点となりそうだ。
第2に、共和党に頼った政策運営に限界があることも変わらない。今後の政策運営のカギを握るのは、民主党との関係である。
税制改革などの議論が一向に進まない背景には、トランプ政権のみならず、共和党の力不足がある。議会の上下両院で多数党であるとはいえ、共和党の議席数は民主党を圧倒的に上回っているわけではない。共和党だけで法律を実現するには党の結束が不可欠なはずだが、党内には保守派と穏健派の根深い対立がある。共和党だけに頼る戦略が、トランプ政権を袋小路に追い詰めている。
「忘れられた人々」への政策は忘れられたまま
まして、これからのトランプ政権は、共和党だけでは解決できない政策課題に対処しなければならない。共和党内の意見が割れていることもあり、9月末が期限となる予算の立法化と債務上限の引き上げには、民主党議員による賛成が不可欠となる可能性が高い。予算が間に合わなければ、政府機関は閉鎖に追い込まれる。債務上限の引き上げに手こずれば、米国による債務不履行(デフォルト)の懸念が高まりかねない。
民主党との距離を縮めるという点では、バノン氏の退任が好材料になるとは限らない。過激な思想の持ち主が退場するという意味では、話しやすくなる面はある。その一方で、トランプ政権がオーソドックスな共和党の路線で結束を強めるとすれば、かえって民主党との距離が開く可能性もあるだろう。
第3に、トランプ大統領を誕生させた有権者の不満は、いぜんとして存在している。トランプ政権になっても、ブルーカラーの白人労働者層など、「忘れられた人々」と言われる人たちに向けた対策は、いぜんとして忘れられたままだ。
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