緊迫するシリア情勢、消費税論議にも影響か 日本株の下落圧力に

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原油価格上昇は消費直撃、日本の電力コストも深刻

シリア情勢の混乱が世界経済に及ぼす最大のリスクは、原油価格の上昇だ。野村証券では金融市場への影響は限定的ながら「中東地域の緊張が強まる可能性が高く、これが最近のブレント原油価格の上昇圧力につながるだろう」と見通している。

実際、ブレント原油の価格は5月末の105ドルから28日現在、115ドルまで上昇している。今年に入り米国を中心に景気が持ち直してきた背景には、原油価格の下落により米国消費が好調に推移してきたこともあるため、変調が起きれば世界景気に影響が出かねない。

日本にとっても、原油価格の影響はあなどれない。かつて07年から08年にかけて、中国でのエネルギー需要の高まりなどを背景に原油価格は140ドル程度まで上昇し、日本の景気後退のきっかけとなった。当時に比べれば価格水準はまだ低いとはいえ、「今の日本では原発停止を抱え、貿易赤字もふくらみ、エネルギー価格の上昇にぜい弱な体質になっている」(伊藤忠経済研究所の主任研究員・丸山義正氏)という面もある。

もっとも、現在の日本のエネルギー輸入では液化天然ガス(LNG)が増えつつあり、原油への依存度は低下している。このためLNGの輸入価格を低下させることの方がエネルギーコストにとってはメリットがある。中東情勢が不透明化する中、「政府は、原油価格と連動しているカタール産LNGの価格上昇の影響を緩和する方策として、米国のシェールガス輸入を早期化すべき」(足立氏)との指摘も浮上している。

株価下落による資産効果はく落、消費増税にも影響

日本経済への影響について、伊藤忠経済研の丸山氏は「実体経済の持ち直しがまだはっきりしない面がある中で、円高が進めば輸出がどうなるかといった懸念がある。新興国経済に不安があることに加えて、中東情勢も悪化するとなると、政策当局も意識せざるを得なくなる」と指摘する。

資産効果はく落による個人消費の減速は、消費増税への判断にも影響しかねない。安倍首相は9月下旬から10月上旬にも判断するとされており、「ここで消費に水を差すようなことになれば、増税反対派の勢いが増すことになるだろう」と足立氏は見ている。

それでも増税は実施されるとするクレディ・スイス証券チーフエコノミストの白川浩道氏は、「シリア情勢は原油価格へも影響するため、日本株が値上がりを阻むリスクの一つ。その場合でも消費増税をやらないという雰囲気は政府には感じられない」と指摘。「おそらく予定通り実施した後で、政策対応すると見ている。財政措置と日銀金融緩和と需要喚起の第3の矢の追加という3つの使い分けを工夫するのだろう」との見通しを示す。

(ロイターニュース 中川泉 編集 北松克朗)

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