「トミーカイラZZ」EV版を作った男の真実

ゼロからの無謀な挑戦を成し遂げた

藤墳氏:スーパーカーブーム全盛期の頃に、幼少期を過ごしたせいか、車との接点で最初に思い出すのは、当時流行っていた「スーパーカー消しゴム」ですね。ただ、どちらかというとおとなしい子どもだった私は、親が期待する「子ども像」みたいなものを感じていて、普通に「夢はお医者さん」など、自分の「好き」ではなく、大人たちから喜ばれそうなことを口にしていました。

そんな周りを気にする自分の心に火がついたのは、中学2年の頃だったと思います。夏休み、母方の親戚の家に遊びにいった時に『バリバリ伝説』という、オートバイ競技を題材とした当時人気の漫画を読んだんです。高校生ライダーがアマチュアから世界チャンピオンになるまでのサクセスストーリーなのですが、なぜか自分は主人公のライダーではなく、エンジニアの方に興味が沸いていました。

――主人公ではなく、脇役(エンジニア)を格好いいと思った。

藤墳氏:作中には実在のバイクが数多く登場するのですが、一介の高校生を世界の舞台まで押し上げたマシン、それを開発するエンジニアの方が、自分にとっては、ものすごく格好いい存在に思えたんです。それまで、なんとなく周りに流されていた自分が「バイクをつくりたい! エンジニアになりたい!」と、明確に自らの道を思い描いた強烈な体験でした。夏休みを終え、大阪の実家に帰っても『バリバリ伝説』読後の興奮は冷めることなく、ずっとその気持ちは消えませんでしたね。

その頃の自分にできること、思いつくことから少しずつ「準備」を始めました。バイクの前段階となる原付の免許は16歳になってすぐに取りましたし、高校の文理選択時には、クラスで一人だけ理系を選びました。普通、得意な科目から進路を選ぶ中で、自分の理由は、ただただ「バイクつくりたいから」しかなかったんです。そのためには得手不得手など関係なく、理系の大学に行かなければと、バイクエンジニアの将来から逆算して考えていました。

それでも1年間浪人し、苦手科目をなんとか克服した末にようやく進んだのが、地元の大学の機械工学科でした。学生時代の記憶は、ほとんどバイク一色。この頃にはバイクの免許も取得して、自分はホンダのCBRというバイクに乗って通学していました。

大学の授業も、特にバイクの設計に必要だと思うことには一所懸命に勉強していたと思います。また、入り浸っていたバイクサークルでは、夜な夜な仲間たちと、バイクについて語り合う日々。峠を攻めてはバイク雑誌に写真投稿もしていました(笑)。

諦めきれなかったバイクエンジニアの道

――すべてはバイクのために……。

藤墳氏:とにかく「ホンダに入ってバイクの設計に携わりたい!」と思い続けていたんです。その頃の私には、『バリバリ伝説』以外にも、バイクエンジニアになる夢を後押ししてくれたひとりの尊敬する人物がいました。もうお亡くなりになってしまいましたが、ニューフェイスから一気にチャンピオンに上り詰め、世界を沸かせた伝説の日本人ライダー、ノリックこと阿部典史さんでした。自分は、阿部選手が使用していたホンダのレプリカヘルメットもかぶって、完全にホンダ党気取りだったんです(笑)。

ところが、そうした私のホンダとバイクへの想いとは裏腹に、就職試験では、ホンダをはじめバイクメーカーからは軒並み落とされました。履歴書を送っても返事すら頂けないこともありました。結局、新卒で入社した会社はバイクとはまったく関係ないところで、半年間の研修後には住み慣れた地元大阪から、九州の佐賀工場に赴任することに。

就職氷河期という時代の中でなんとか入れてもらった会社で、地元の工場の人にもよくしてもらい、正直居心地も悪くはなかったんです。ところが働いていてもなんだか身が入らない。同時期に就職して「頑張っている友人」と自分の差は何なのか……。まだ「好き」を諦める必要はない、もっと挑戦したいと思ったんです。働きながら第二新卒を目指して、車雑誌などに載っている求人募集はすべてに目を通して、電話で問い合わせては面接を繰り返していました。

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