「フォーミュラE」にドイツ勢が参戦したワケ モントリオールを取材してわかったこと
根拠は2つある。1つは日本メーカーがフォーミュラEに参戦する可能性だ。最右翼は日産自動車。モントリオールのメディアセンターに集まった各国のモータージャーナリストの間では「(ブエミが所属している)ルノー・e.ダムスとの入れ替わりで日産がフォーミュラEに参戦してくる」といううわさで持ちきりだ。
日産は2018年にEV「リーフ」のフルモデルチェンジを予定している。新型リーフのフル充電時の航続距離は600キロメートルで、現行の2倍以上に伸びる。ガソリン車と遜色ないレベルで、本格的な普及が期待されている。切り札である新型リーフの登場に合わせて日産がフォーミュラEに参戦する可能性は決して低くないだろう。
もう1つの根拠は、主催者であるフォーミュラEホールディングスが日本開催を熱望していることだ。同社のアレハンドロ・アガグCEO(最高経営責任者)はモントリオールで筆者の取材に応じ、「東京都、横浜市のガバナー(知事、市長)と交渉している」と明かした。
中でも有力と見られるのは横浜市だ。モントリオール・グランプリ開催中の7月30日には、横浜市の林文子市長が再選を決めた。林市長はフォルクスワーゲンジャパン販売とBMW東京の社長を務め、ダイエーの会長を経て日産の執行役員に就任した経験を持つ。自動車産業への理解は深く、「EVを横浜市経済の起爆剤にしよう」と考えても不思議ではない。
レースにつきものの爆音がなく、市街地での開催が可能
フォーミュラEの特徴は、時速200kmで走るレーシングカーが騒音や排ガスをほとんど出さないところにある。エンジンを搭載しないEVのフォーミュラカーは「ヒュイーン」というインバーター音を残して走り去っていく。あまりに静かなので、コーナーでは「キュキュキュキュキュッ」とタイヤが軋(きし)む音が聞こえるほどだ。
レースにつきものの爆音がないから、市街地での開催が可能になった。モントリオールで行われるカナダグランプリは、普段、市民が通勤や買い物の車が行き交う公道の一部を通行止めにして全長2.745キロメートルのサーキットを作り、そこを時速200㎞でEVが駆け抜ける。今シーズン、フォーミュラEはモントリオールのほかパリ、香港、ニューヨークなどで公道レースを実施した。
「地球に優しいF1」であるフォーミュラEは、環境先進都市であることを世界にアピールするのにうってつけだ。見慣れたランドマークの間をレーシングカーが走る公道レースは、都市から隔離されたサーキットで開催される従来型のレースより、ぐっと身近に感じる。爆音が轟(とどろ)かないレース場にはBGMが流れ、家族連れがミュージックフェスティバルを楽しんでいる雰囲気だ。
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