太陽電池・世界大バトル! お家芸が一転窮地に、日本メーカー逆転への一手
急激に勢力増した海外新興メーカー
欧州の固定価格買い取り制度に端を発した太陽電池の需要急拡大。その中でメーカーの勢力図はガラリと変わった。一気に勢力を伸ばしたのが、ドイツのQセルズや中国のサンテック・パワー、米国のファーストソーラーなどをはじめとする海外勢。シャープや京セラ、三洋電機など日本を代表する太陽電池メーカーは軒並みシェアを落とし、一時5割あった日本企業の市場占有率は2年の間に2割台前半にまで落ち込んだ。
シャープを抜いて生産量で世界首位になったQセルズは、会社設立から今年でわずか9年目。地元欧州での需要拡大を追い風に驚異的な成長を続け、04年に75メガワットにすぎなかった生産量は07年に389メガワットにまで拡大。売上高も円換算で1400億円を突破した。同様に急成長を続けるサンテックやファーストソーラーにしても、会社設立から10年に満たない新興専業メーカーだ。
そもそも、太陽電池は日本で育ち、日本で開花した技術である。オイルショック後、国内では旧通産省の「サンシャイン計画」が始動し、官民協力の下で太陽電池の技術研究が進められてきた。1994年には一般家庭での太陽電池導入を対象とした国の補助金制度も始まり、世界に先駆けて国内の市場が立ち上がった。そうした経緯から、太陽電池は日本が世界をリードし続け、「日本のお家芸」とも称されてきたはずである。
では、なぜ日本メーカーは、かくも短期間に海外の新興企業にシェアを奪われたのか。「短期間で市場環境が劇的に変わり、対応が後手に回ってしまった。甘かったと言われれば、それは認めざるをえない」。ある国内メーカー幹部はこう漏らす。
欧州で太陽電池の需要が伸び始めると、千載一遇のチャンスと見たQセルズやサンテックなどは、株式市場で調達した多額の資金を投じて積極果敢に生産能力を増強。さらに、原材料の調達面でも、「海外の新興企業の動きは素早かった」(京セラの川村誠社長)。現在主流の結晶系太陽電池は大量のシリコンを使用するため、太陽電池の需要急増でシリコン需給が徐々に逼迫。海外勢は増産投資したラインを動かすために、有力なシリコン業者への出資や数年にわたる長期契約を結び、大量のシリコン確保に走ったのである。
機動力で商機をとらえた海外勢に対し、増産投資と原料争奪戦に出遅れた国内メーカーは短期間で大幅なシェア低下を余儀なくされた。中でもシャープはシリコン調達で大失敗し、07年の生産量が389メガワットと前年実績(434メガワット)を割り込む事態に直面。7年連続で守り続けてきた世界シェア首位の座をQセルズに明け渡したのみならず、工場の稼働率低下で太陽電池事業が赤字に陥った。作りさえすれば欧州で高く飛ぶように売れるため、高値で仕入れたシリコンを使っても軽く10%の儲けが出るのが最近の太陽電池業界。業界大手シャープの赤字転落は、異例ともいえる出来事だった。
長かった日本メーカー優位の時代を太陽電池産業の「第1幕」とするならば、今は欧米やアジアの新興専業メーカーが機動力などを武器に勢力を拡大する「第2幕」といえる。
こうした中、日本勢は巻き返しに必死だ。昨年夏に大阪・堺市での巨大新工場建設を発表したシャープをはじめ、国内大手各社は相次いで能力増強に向けた投資計画を表明。三洋は経営再建中にもかかわらず、今年度から3カ年で700億円を太陽電池事業に投じ、生産能力を現在の260メガワットから600メガワットに引き上げる。今年4月には次世代技術の戦略開発拠点を設立し、3年間で研究開発に75億円の予算を組んだ。
同社は現在の結晶系で業界トップの発電性能を誇り、設置面積が限られる住宅の屋根用途などで優位性を持つ。「住宅用分野で今の強みを維持しながら、より低コストで作れる次世代太陽電池の研究開発を進め、3年以内の事業化を目指す」(前田哲宏・三洋電機執行役員ソーラー事業部長)。京セラも3年間で能力を500メガワット(現在は240メガワット)に増やす計画で、「日本企業の武器である製品の長期信頼性をきちんとアピールしつつ、生産能力増強とコストダウンを着実に進めていく」と同社の太陽電池事業を率いる前田辰巳・取締役執行役員は語る。
シェア低下に危機感を募らせ、能力増強に動き始めた国内勢。しかし、日本の太陽電池メーカーが直面する問題は、何も足元のシェア低下だけにとどまらない。実は、国内勢のみならず、Qセルズなど第2幕の主役たちをも脅かすような、新たな異変が起きつつあるのだ。