太陽電池・世界大バトル! お家芸が一転窮地に、日本メーカー逆転への一手
現在の主流である結晶系の太陽電池は、すでに参入企業が世界で200社を超えた。「結晶系の太陽電池に関して言えば、設備の投資負担が比較的に軽いうえ、ずいぶん前から専用の製造装置も市販されている。単に作るという意味では、もはや結晶系太陽電池の参入障壁は消えたに等しい」(野村証券金融経済研究所アナリストの和田木哲哉氏)。日本勢が薄膜など次世代太陽電池の技術開発を急ぐのも、そうした切実な事情があるからだ。
ところが、AMATやアルバックをはじめとする半導体・液晶装置メーカーの本格参入により、その薄膜太陽電池の一貫製造ラインが、早くも世の中に出回り始めたのである。次世代の薄膜まで市販の装置で簡単に作れてしまうなら、日本の太陽電池メーカーにとって、今後の差異化による反撃のチャンスは狭まる。太陽電池業界に起きつつある新たな異変。それはAMATをはじめとする大手製造装置メーカーが主役を演じる、第3幕の幕開けでもある。
実は、「第2幕」のきっかけとなった、欧州の固定価格買い取り制度にも異変が起きつつある。ドイツはこれまで太陽光発電の新規買い取りレートを毎年数%ずつ引き下げてきたが、今年6月には、その下げ幅を10年から1割程度に拡大することを決定した。スペインも9月から買い取りレートを下げる方針で、実に3割以上の引き下げを検討中。いずれも太陽光発電の国内導入量が増え、消費者や国が負担する制度維持コストが増加したことが背景にある。買い取り価格引き下げの動きが広がれば、今の「高くても作れば売れる」状況が一変し、本格的な価格競争が始まるのも時間の問題だ。
勢力を増す海外の新興専業メーカー、大手装置メーカーの本格参戦、そして目の前に迫りつつある壮絶なコスト競争--。冷静に眺めれば眺めるほど、日本の太陽電池産業を取り巻く環境は厳しい。はたして、日本勢はこの強烈な逆風を乗り越え、勝ち残ることができるのか。
そのカギを握るのが日本のトップメーカー、シャープだ。来年秋稼働を目指し大阪・堺市で建設を進める薄膜太陽電池の新工場が反撃の舞台になる。堺の新工場は、09年後半にまず160メガワットのラインを稼働。10年春までに総額720億円を投じて480メガワットの生産体制を整え、最終的には世界最大級となる1ギガワットへと生産能力を引き上げる。
「堺には当社の技術を総動員し、どこにも負けない最先端工場にする。堺の稼働でコストを今の半分にまで下げたい」とソーラー事業担当の濱野稔重副社長は言う。その自信の根拠は二つの仕掛けだ。一つは、同じ敷地内に建設するテレビ用大型液晶工場との相乗効果。堺のコンビナートには液晶の部材業者の進出も決まっており、薄膜太陽電池と液晶の共通原材料であるモノシランガスのインフラ設備が共有できる。
そして、同社が新工場の最大の切り札と位置づけるのが、独自に開発した製造装置である。薄膜太陽電池は製造装置、中でも実際に膜を形成する「プラズマCVD」と呼ばれる装置がコストや変換効率などの性能を規定する。シャープはそのプラズマCVD装置を独自に開発した。
関係者らによると、一つのCVD装置で同時に複数のガラス基板を処理できる画期的なものだという。ラインに流すガラスサイズ自体はAMATより小さいが、独自技術による複数枚処理により、ラインの生産効率はAMATに勝るというわけだ。
堺では性能を示す変換(発電)効率でも、薄膜太陽電池で業界トップとなる10%を実現する計画だ。「まずは今秋に葛城工場(奈良)で立ち上げる薄膜の新ラインで装置の精度を高め、改良版を堺に持ち込む。堺が当社の薄膜太陽電池のモデル工場になり、それを今度は海外などに横展開する」(濱野副社長)。
そこから浮かび上がるのは、これまでのような「日本企業」対「海外の新興メーカー」という単純な構図ではない。次世代の薄膜太陽電池を舞台にした、AMATをはじめとする世界的な大手製造装置メーカーとシャープの全面対決である。
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(渡辺清治、山田雄大、杉本りうこ 撮影:尾形文繁、ヒラオカスタジオ =週刊東洋経済)
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