英国地下鉄、日本と違う「痴漢冤罪」への対応 いきなり警察に引き渡すことはしない

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ロンドンは死角のない都市と言われている。駅構内にも、至る所に監視カメラが設置されている(筆者撮影)

ロンドンは、2012年のオリンピック開催に合わせ、鉄道やバスなどの公共交通機関はもちろんのこと、市内の至る所にCCTVカメラが設置され、死角のない都市と言われている。もちろん、もともとこれはテロ対策のために設置されたもので、これを四六時中監視されているようだと苦言を呈する人もいるが、このカメラのおかげで、テロ抑止のみならず、こうした犯罪の原因特定にもつながっていると言えよう。

さて、こうした調査の下、加害者による痴漢行為が明らかとなった場合は、あらためて警察へ通報し、逮捕されることになる。またこの手の犯罪は、再犯率が高いということで、一回逮捕されるとデータベースへ登録され、別の同様の事件を捜査する際、前科がある人を抽出し、調べることもあるとしている。

日本でもカメラの効果はあるか?

地下鉄車内に設置された監視カメラ(中央上の車体番号の脇)。その下には、カメラで録画されているという注意書きが記されている(筆者撮影)

TfLでは、痴漢被害者のうち、わずか10%しか通報しなかった点を問題視し、同社サイトでは携帯のテキストメッセージ、もしくは専用ホットラインへ連絡してほしいと呼びかけている。特別に訓練された専門チームでは、ささいなことでもきちんと調べ、被害者の心のケアにも対応している。

また、痴漢行為があった際の通報を促す啓蒙ビデオも制作している。サラリーマン風の男性が若い女性の体を触ったり、体を押し付けたりという少々刺激の強い映像で、最後にSNSでメッセージを送るか、専用電話に掛けることを促す内容となっており、動画サイトで配信されている。こうしたキャンペーンの効果で、昨年TfLへ通報された件数は前年と比べてわずかに増えている。TfLでは、こうした通報の積み重ねによる情報蓄積は、後々の痴漢防止などの対策に役立つとして、気になったらすぐに通報してほしいと述べている。

JR東日本は、量産が始まった山手線用新型車両E235系車両について、2018年春ごろより車内ドア付近に順次、CCTVカメラを設置していくと発表した。社会問題となっている日本のラッシュ時における痴漢行為だが、その抑止効果としてはもちろんのこと、万が一トラブルが発生した際の状況分析など、冤罪防止のために公正な調査を行えるように活用してほしい。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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