「病人は安静に」の常識は患者から何を奪うか がん患者ですら適度な運動はしたほうがいい

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では、適度な運動とはいったいどの程度の運動量なのでしょうか。運動の強さは心拍数をメドに決めます(「内科疾患のリハビリテーション」『治療』 2017年5月号 南山堂)。年齢によっても異なりますが、心拍数で110~120/分が目安となります。このような客観的な数値だけでなく、運動を終えた後に快い疲労感があること、運動をした日の翌朝に疲れを持ち越していないことの2つの自覚症状も適度な運動量を知る目安となります。

しばらく体を動かしていなかった人は、いきなり強い運動から始めるのではなく、徐々に運動を増やしていくことが勧められます。上記の2つの自覚症状から適度な運動量を知ることができます。ただし、疲れていると思うときには休んだり、短く切り上げることをためらわないでください。調子がよい範囲内でやればよいことです。なによりも大切なのは、運動を長期にわたって継続できるかどうかです。 

運動の種類は、歩行や水泳、プール歩行などは多くの患者さんで問題がありません。ジョギングではやりすぎになってしまう心配があります。また、普段健康な人や軽い慢性病の人であれば、テニスなどのスポーツもお勧めです。テニスは死亡率を最も下げることが報告されています。

運動を持続させるための3条件

運動を持続して行うために大事なこととして、①自律性(誰かに言われてやるのではなく自分から興味を持ってやること)、②有能感(やっている間に進歩や成し遂げた感じが得られること)、③社会的関係性(他者との関係性がつくれること)の基本的欲求を満たしていることが挙げられます(勝川史憲「運動継続と内発的動機付け」『プラクティス』34巻 291~3頁、2017年)。

3つの要素を満たす運動なら持続しやすいし、健康にもよいのです。つまり、自分で見つけたやりたい運動、その習熟や上達が楽しみとなる運動、仲間とつながることのできる運動であれば、それを持続しやすくなります。テニスが健康によいのは、これらの要素を満たしやすく、持続して無理のない範囲で続けられるためではないでしょうか。この3要素は自律的な患者になるためにも大切な事項ではないかと思います。

病気をもっている人は、一度、ご自分の主治医と運動の可能範囲について話し合ってみてはどうでしょうか。医療者と自分の運動や活動度について話し合うことにより、患者は自律性を意識することができ、患者と医療者の関係性にもよい影響を与えるのではないかと思います。良心的な臨床医なら、運動の可能範囲について、一緒に考えてくれることでしょう。

加藤 眞三 慶應義塾大学看護医療学部教授

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かとう しんぞう / Shinzo Kato

1956年生まれ。1980年に慶應義塾大学医学部卒業。1985年に同大学大学院医学研究科博士課程単位取得退学(医学博士)。米国マウントサイナイ医学部研究員、 東京都立広尾病院の内科医長、内視鏡科科長、慶應義塾大学医学部・内科学専任講師(消化器内科)などを経て、 2005年より現職。著書に『患者の生き方』『患者の力』(ともに春秋社)などがある。毎月、公開講座「患者学」を開催している。
 

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