JR東日本が「360キロ新幹線」に着手する理由 3度目の挑戦で、国の規制を打ち破れるか

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さらに現実的な要因がある。今年4月7日、国土交通省が青函共用区間の高速運転に向けた検討を開始したことだ。主目的は現在、在来線並みのスピードに抑えられている青函トンネルとその前後の区間の速度向上についての検討だが、同時に東北新幹線・盛岡―新青森間の速度向上についても議論がスタートした。

現在の東北新幹線の主力車両「E5系」(撮影:尾形文繁)

時速320キロメートルで運行しているのは宇都宮―盛岡間のみで、盛岡―新青森間の最高速度は時速260キロメートルに抑えられている。盛岡ー新青森間は「整備新幹線区間」であり、最高時速を260キロメートルに抑えるという規制が設けられているためだ。線路や防音壁はその前提で造られている。

ただ、新幹線が高速化時代を迎え、速度制限を設ける根拠が薄くなってきた。JR東日本は「東北新幹区間における時速320キロメートル区間のさらなる拡大」を中期経営計画のテーマに掲げてきた。2013〜2014年には盛岡ー新青森間で深夜に走行試験も行なっている。

しかし、実現性については、今年2月の取材で冨田社長は「決して簡単なことではない。時速320キロメートルで走るとなれば現状よりも騒音問題や振動問題が出てくるし、相当な設備投資が必要になる」と語っていた。そもそも国の規制がある以上、JR東日本が単独で実施できる話ではない。

一方の国土交通省はこれまで速度引き上げに消極的だったが、時間短縮という観点からようやく規制の見直しに向けて重い腰を上げた。沿線環境の最新状況や技術的な側面を踏まえて最高速度引き上げが可能かどうか、検討を行うというのがその内容だ。

JR北海道もメリットを享受?

JR東日本は、時速360キロメートルでの営業運転をどの区間で実現するかは明言していない。現状から判断すると宇都宮―盛岡間ということになるが、盛岡以北についても騒音などの環境問題がクリアされ、時速260キロメートルという速度制限が撤廃できれば、時速320キロメートルどころか、時速360キロメートルへの引き上げ対象となり得る。そう考えると、冒頭の「なぜ今のタイミングの発表なのか」という疑問も解消する。国交省の速度引き上げに関する議論を「今後の検討課題」といった先送りの結論で終わらせないためのJR東日本からのメッセージともとれるのだ。

盛岡―新青森間で速度制限に風穴が空けば、同様に整備新幹線であり最高時速が260キロメートルに抑えられている北海道新幹線も時速360キロメートルで運転できる可能性が出てくる。そうなれば時短効果は計り知れない。そもそも着工中の新函館―札幌間は大部分がトンネル。騒音など環境面での影響は小さいはずだ。スピードアップが実現すれば飛行機から新幹線へのシフトが一気に進み、JR北海道(北海道旅客鉄道)の経営に対する強烈なカンフル剤となるに違いない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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